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▼ 続トらファルがー医院

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どうしても会いたくない男がいる。人の縁とは不思議なもので、会いたくないと願うほど、まるで引き寄せられるように遭遇してしまうものだ。
だったら、会いたいとも会いたくないとも考えないで、ただただ意識からDeleteすればいいのだけど、何故かそれはできない。どうしても会いたくない。会いたくない、会いたくない。結局私の頭の中には、ずっとあいつが巣食っている。なんだ結局もう会っているようなものじゃないかと脱力して、腹が立った。

「今日はどうした?」

二度と会いたくなかった男が今目の前にいる。ニヤリと口元だけで笑うセクハラ野郎は、今日も目の下が真っ黒だ。
ついさっき向かいの花屋で観葉植物を買ったら、なぜか指に棘が刺さった。たまたま通りかかった友人がそれに気づいてここまで連れてこられた。いい迷惑である。

「なんでもありません。帰ります。いや帰らせてくださいっていうかお前どんだけ寝不足だ。寝ろよ、まじで」

私は思いつく限りの悪態を並べながら、隈を視界に捉えたままそろそろと診察室のドアに近づく。・・・エースめ。さっさと帰ったあいつのイイコトしたなー的な笑顔が心底憎い。

「シャチ。出口を塞げ」
「はいよー」

!!!!
衝撃だ。あのシロクマの他にも仲間がいたのか。シロクマは受付にいることを確認していたからすっかり油断していた。全人類の絶望をすべて背負い込んだ顔で振り向くと、シャチとやら男はこちらを見て申し訳なさそうな顔を作った。

「あー悪ぃな。諦めたほうがいいぞ」

顔が半笑いなんですけど!?絶対悪いって思ってないじゃん!

「そんなに俺といるのが嬉しいのか」

飛び出すほど照れる必要はないのだというようなことをトらファルがー先生が諭すように言う。勘違いも甚だしい。

「もうどこから突っ込んだらいいかわかんないっ!」
「あいにく俺は男だ。そんなに突っ込んでほしいなら早く言え」
「こ、こわい!この人頭おかしいって!!」

ありえない。一見無表情なのに口角だけを上げて笑うその顔は一言で言えば変態そのものだ。隈があることで変態っぷりが増している。頭おかしい!と指を差して叫ぶと、流れるような動きでひょいと腕を掴まれた。

冷たい。
前も思ったけどトらファルがー先生の手は異様に冷たい。思わず一瞬動きを止めると、トらファルがー先生は真剣な目で私の指にそっと触れて、思いがけず優しい力で私を椅子に引き寄せた。

「随分深くまで刺さってるな」

「・・・あ、はい。すみません」

あっさり捕まってしまったと焦りながらも、すみませんなんて謝ってしまう。私はトらファルがー先生の真剣な顔がとても苦手だ。なんといえばいいか分からないけど、とにかく言うことを聞かなければいけないような気になるし、先ほどの態度を反省してしまったりもする。それくらい治療をするトらファルがー先生は医者らしい風格があるのだ。

「・・・痛いか?」
「大丈夫です」
「そうか」

優しい。先ほどまでの変態はどこにいってしまったのだ。私が痛さでぴくりと動くたびにまっすぐにこちらを見て様子を確認してくれる。

「すみません・・」

もはや何に対してか分からない謝罪の言葉が思わず口をついて出てくる。ピンセットを器用に動かしながら私の手を優しく包んだその手はやっぱり冷たくて、

「なにを謝ってるんだ」

真剣な目からフッと緩んだ目元が殊のほか優しくて。私の心臓はトクトクと脈を速めた。

「取れたぞ」
「あ。ありがとうございます」

私は頭を下げてお礼を言った。少し赤くなっているだろう頬を隠したかったのかもしれない。
チロッ
・・・・は?なんか今指をチロって・・舐められた、気がする。驚いて顔を上げると、トらファルがー先生はまるで目が合うのを待っていたかのように
またゆっくりと指を、いや小さな傷跡から浮かぶ血を、舐めた。
思いのほか赤い舌。
薄く目を伏せたその表情。
色気を感じさせる首の角度。
その全てがひどく惰性的で、思わずその様に見とれているとトらファルがー先生がふとこちらを見上げた。

「ローだ」

これからはそう呼べ、命令口調でニヤリと笑ったその顔を確認した瞬間、

「ふざけんなぁあああぁ!!」

バチーンと右頬をビンタして、逃げた。あんなセクハラ野郎に一瞬でも見とれたなんて。不覚っ!!忘れろ!わたしっ
受付の前を通り過ぎると「おい会計してけよ。あぁでもまぁ悪かったな」と声が掛かった。横目で確認すると、ペンギンと書かれたへんてこな帽子をかぶった男が、息子の不出来を詫びる母親のような顔で手を振っていた。

「ちゃんとしつけてよっバカっ!」


【もう二度とこない!】
と誓った、二度目の来院




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