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▼ 甘く甘い愛を君に

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レンアイは全然分かんねぇ。モビーにもコイビトドウシはいるけど、手本にはならない。こいつらが“バカップル”で、普通じゃないからだ。たぶん、いや絶対。

「はいアンちゃんお待たせ」
「ありがと」

「熱いからきぃつけて食べろよー?」
「うん」

アンがサッチの差し出すスプーンを受け取って、サッチが運んできた夕食のグラタンを食べる。サッチの手はアンの頭に乗っていて、グラタンを口に運ぶ姿をニコニコと見ている。

「、アツッ」
「あぁっほら水っ!言ったじゃねぇか、大丈夫か?」
「平気。ありがとサッチ」

サッチが即座に水を渡して、アンの背中を優しく撫でた。


「あーーなんか俺、見てらんねぇ」

俺がうんざりだとばかりの声を上げると、目の前の二人は首を傾げた。そろって傾く頭は角度もタイミングもぴったりだ。食ったり、寝たり、食ったりし終わった俺の前で繰り広げられる光景に俺は言う。見てらんねぇ。

「どうしたの?エース」
「どうしたもこうしたもねぇって。お前ら毎日毎日イチャイチャしてて飽きねぇのか?」

不思議そうな顔をするアンに、俺は馬鹿でかいため息を返した。

アンとサッチはコイビトドウシだ。随分長いらしい。俺が白ひげに入った頃には既に何年も付き合っているのだと聞いたから、今は何年+1年だ。細かい年数はどうでもいい。正直全く興味ねぇ。
この二人は時間さえあれば常に一緒にいて、バカみたいにイチャイチャする。任務以外の時間は、たぶんずっと一緒にいる。ていうか同じ隊だから任務中も一緒か。
なんだ、24時間一緒にいんのか、こいつら。トイレも一緒だ、とか言い出しそうな勢いだから、俺は敢えて聞かない。聞きたくない、そんな事実。限りなく事実である可能性が高いだけに。

飽きないのか、と聞くとアンとサッチは顔を見合わせて、また首を傾げた。5秒見つめ合って、ふふっ、ひひっと笑いあってどちらともなく触れるだけのキスをした。そのまままた見つめ合って、ふふっ、ひひっと笑って・・・

「だぁああ!もういいって!お前ら俺の存在忘れてるだろっ」

ここは二人の世界かよ。ちがうだろ、ここは食堂だ。俺が一番好きな場所、食堂のはずだ。なのにこのピンクな雰囲気。うんざりだ。

「俺、お前らみたいな付き合い方ぜってぇ無理だ」

そもそも俺は女なんかより冒険のほうが楽しい。冒険と24時間一緒にいろってんなら大歓迎だけどな。っていうかこの二人を見てたら面倒くせぇなって思って、ますます女に興味がなくなる。俺がこんなことを考えている間も、サッチはアンの髪を指に絡めて遊んでいて、アンはグラタンをフーフーしながら笑っている。

「ちょっと熱すぎたか?冷ましてやるよ」

サッチが手を伸ばして机の隅にあるスプーンなどを入れてる木箱から、片手で器用にスプーンを取り出す。なんで片手かというと、もう片方はアンの腰に巻きついてるからだ。
アンを背後から抱き込むようにしてグラタンを掬ってフーフーする。アンが自分のスプーンのグラタンを飲み込むと、フーフー済のスプーンを持たせて、アンが食べている間にまたフーフー。

・・・なんだ、この状況。
ていうかなんでサッチ座らねぇの?どうせアンをだっこしたいからとか言い出すから、ぜってぇ聞かねぇけど。
机に突っ伏した状態でそんな二人をぼーっと見ていると、漸く食べ終わったところで、アンが他の隊員に呼ばれた。アンは古株だけあって戦闘も結構いけるけど、なにより事務処理の正確さと速さがハンパない。サッチがコックと隊長を兼任できているのも、アンがいるからだとマルコが言っていた。だからアンも結構忙しいはずだけど、俺からしたら常にサッチのやつといる印象しかない。

「サッチ私行くね?」
「おう、きぃつけて行って来いよ」

廊下を歩くだけだろうに、何に気をつけろって意味なのかさっぱり分かんねぇ。いつの間にか繋いでいたらしい手をゆっくり離した二人は、当たり前のようにキスをして、当たり前のようにハグをしてから、離れた。食べ終わった食器を運ぶのは、サッチ。これも当たり前のことらしい。

「なぁサッチ、お前本当に飽きねぇの?他の女とかいらねぇ?」

アンの姿が見えなくなるまでそちらを見つめているサッチに、俺は再度問いかける。アンがいないなら本心が聞けるかもしれねぇからな。

「当たり前だろ?それにアンはもう、俺なしじゃ生きていけねぇからな」

いつもと同じヘラっとした笑顔なのに、何故か俺は背筋に冷たい汗が流れた。


【甘く甘い愛を君に】




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