▼ Theおっさんラプソディー
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自分の気持ちに素直になるのが大切だとよくいうけど、その自分の気持ちとやらに気づいていない場合はどうしたらいいのだろう。
例えば、こいつ。
「睨むなって」
「睨んでねぇよい」
何言ってんだとばかりに鼻で笑ってコーヒーを啜る男に、俺は大げさなため息をつく。苦々しい顔で舌打ちを打つ視線の先には、クルー同士でじゃれるアンの姿。
「だから睨むなっつーの」
「・・・」
俺まで睨まれた。長い付き合いだが恐らく初めてであろうマルコの言動に、俺は何度も同じセリフを吐く。アンを睨むな、と。
「わ、すごいっ!ちょうだいちょうだい!」
「おういいぞー!って無理だし!」
あはは、あはは
何がきっかけか蛍火をふわんと浮かべたエースにアンがくれ、と騒ぐ。
エースは2番隊隊長で、アンは部下。
エースは20歳で、アンは19歳。
エースは大バカで、アンは小バカ。
まだ微妙に明るい夕暮れオレンジの甲板で、ふよふよと漂う小さな炎は心許なくて、傍からみたら少し間抜けで。でも今にも消えそうな揺らめきは、思わず手を伸ばして助けてやろうと思ってしまう。
「チッ」
目の前のおっさんが捨て台詞のようにまた舌打ちをして、僅かに残ったコーヒーを飲み干す。
もうすっかりぬるいだろうそれが、何故熱湯からその温度まで放置されたのか、
俺は、知ってる。
マルコは、知らない。
苛立たしげに書類を掴んで立ち上がったそこが、何故甲板をよく見渡せる席だったのか、
俺は、知ってる。
マルコは、知らない。
何故部屋ではなく食堂にいるのか、
何故イライラするのに、目で追ってしまうのか、
全ての答えを、俺は知ってて、マルコは知らない。
振り向きざま、ふと青い目とぶつかった。
マルコはまた言う。
「睨んでねぇ」
俺は肩をひょいと上げてその後ろ姿を見送った。
【Theおっさんラプソディー】
おっさんにも甘い恋をと望む俺は、野暮な男なのだろうか。