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▼ この鬼ごっこを永遠に

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世の中のものは大体二つに分けられるらしい。男と女とか、海賊と海賊じゃないやつとかな。

例えば、人間には、相手からひたすら追われたいタイプと相手をひたすら追いかけたいタイプがあるとして、
例えば、それが俺とお前だとして、つまりお前には俺が必要だってことじゃねぇかと思うんだ。


「すげぇ邪魔」
「お気になさらず」

「まじ重い」
「気のせいですよ、空気ですから」

外は雨。ここは食堂の隅にあるベンチ、のようなただの段差。いつの間にか寝ていたらしい。舟を漕いだ拍子に目を開けたら、視線の先では暇を持て余したクルーたちが顔を寄せて小さなカードを見つめていたり、昼間から見慣れた瓶を傾けていたりして、俺の背中にはちっこいのが張り付いていた。

「なんで空気が喋るんだよ」
「・・・」

「無視すんなよ」
「空気は喋らないんですよ」

ザァザァザァザァ、ザァザァ、ピチョン

うるせぇ。まだ夢と現実の狭間をふわふわ漂っている今、クルーたちのバカ騒ぎと鳴り止まない雨音が耳につく。さっさと寝ちまえば気にならねぇのに、さっきから背中に圧し掛かる重みがすげぇ邪魔。

「手、邪魔」
「手はあいにく取り込み中です」

「そうかよ」
「そうです」

邪魔だと言いながらもその手を振り解かないで、背中に掛かる重みさえもそのままにしている俺は、長雨でどうかしちまったらしい。
なんとなく、ただなんとなく、その小さな手に自身の手を重ねてみた。思いのほか冷たいそれに俺が驚くと、背中でふふっと空気が揺れた。

ザァザァザァザァ、ザァザァ、ピチョン

「手、あったかいですね」
「お前のが変だろ」

無性に暖めてやりたくてもう片方の手で包んでみると、小さな手が器用に動いて指と指が絡まった。

「エース隊長、大好きですよ」
「ん。でも俺はキライ」

追いかけられたら逃げたくなるけど、追いかけて来ないならそれはそれで腹が立つ。つまり、俺はずっと逃げて、お前はずっと追いかけてりゃいいんだと思う。

例えば、人間には、相手からひたすら追われたいタイプと相手をひたすら追いかけたいタイプがあるとして
例えば、それが俺とお前だとして、つまりお前には俺が必要だってことじゃねぇかと思うんだ。


願わくば、
【この鬼ごっこを永遠に】





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