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▼ 賑やかで穏やかな雨の日

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世の中のものは大体二つに分類できる。
男と女などがいい例で、海賊と海賊じゃないやつなんてのも分かり易い。

例えば、音のある世界と無音の世界があるとして、
例えば、音のある世界は少し煩わしくて、無音の世界では物足りないとして、
例えば、その両方が共存する空間があるとするなら、つまりそこはとても心地のいい場所じゃないかと思う。


「邪魔だよい」
「お気になさらず」

「重いよい」
「気のせいですよ、空気ですから」

外は雨。ここは食堂の隅にあるベンチ、のようなただの段差。本を読む手を止めて顔を上げれば、暇を持て余したクルーたちが顔を寄せて小さなカードを見つめていたり、昼間から見慣れた瓶を傾けていたりする。

「空気は喋らねぇよい」
「・・・」

「喋らねぇのかい」
「空気ですから」

ザァザァザァザァ、ザァザァ、ピチョン

煩いほどの喧騒の中にいるはずなのに、雨音がくっきり耳に届く。近くにあるはずの喧騒が、まるで別世界のように感じる不思議な空間。俺はまた本に意識を落としながら、腹に回った小さな手に自身のそれを重ねた。

「手、邪魔だよい」
「手はあいにく取り込み中です」

「そうかい」
「そうです」

後ろから掛かる適度な重みと暖かさは、ずっと背中にくっついたままだ。物語も終盤に差し掛かったというのに。また負けたー!末っ子の騒ぐ声が放物線を描いて、三歩手前で落っこちた。

ザァザァザァザァ、ザァザァ、ピチョン

背中に感じる呼吸の音が、ゆっくりゆっくり深くなって、腹に回った力が緩んでずれ落ちた。

「重いよい」

返ってこない返事の代わりに、本を閉じて、目も閉じた。


例えば、音のある世界と無音の世界があるとして、
例えば、音のある世界は少し煩わしくて、無音の世界では物足りないとして、
例えば、その両方が共存する空間があるとするなら、つまりそこはとても心地のいい場所じゃないかと思う。


【賑やかで穏やかな雨の日】





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