Before Short | ナノ


▼ 穏やかな春の日

[ name change ]


通い慣れた扉を開くと春の日差しに包まれた。
何度かノックをしたけど返事がないから中を覗いてみたら、マルコは机に向かったまま身動きひとつしない。

そろりと扉を抜けて書類が山を作った机へと足を運ぶ。
足音は立てず。
気配を消して。

次の島が近い。おそらく昨日も徹夜だったのだろう。
手を少し伸ばせば大きな背中に触れる距離。
音を立てずにゆっくり屈んで膝立ちで更に半歩。

起きない。

机に頬杖。
手にはペン。
書類の上には黒い水たまり。
つっかけただけのサンダルが思いがけず彼を幼く見せる。
しゃがんだまま見上げると、口許が少し開いていて思わずふふっと声が漏れる。
僅かに開いた窓から潮風がのどかな空気を運んできて、穏やかな光が男にしては長い睫毛に影を落とす。


目の下に薄っすらとした隈を見つけた。こうして無理をするのはいつも愛する親父と家族のため。
私はそんな貴方を誇りに思って、少し心配になって、やっぱり誇らしく感じる。
そしてそんな貴方が選んでくれたから、私は私に誇りを持てた。

ありがとう。

愛しいその唇にくちづけをひとつ。

重なった影に風が舞ってカーテンが揺れる。
溢れる感情の全てを込めて、目許をまたひと撫で。
目蓋が薄っすらと持ち上がった。
普段より更に眠そうな瞳とパチリ交錯。

「もう一回」

甘えるように拗ねるように口を尖らせる貴方に、あぁ私は、何度恋をすればいいのだろう。
この胸に溢れる感情は恋であって愛であって、甘酸っぱくて暖かで、つまりはこの穏やかな春そのもの。


【 穏やかな春の日 】

落ちるのが恋だと言うのなら、愛とはきっと高く高く浮き上がり広がるもので、恋愛とはつまり世界の全てを味わうと言うことなのだろう。



somehow xxxまつ様も同じテーマが執筆されてます。



[ back to short ][ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -