▼ 機能鳥型ロボットマルエモン
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神というやつは乗り越えられる試練しか与えないのだという。
そうは言っても、やはり自分だけは楽をしたいと思うのが人間というもので。でも、それではいけないと自分を戒められるのもまた人間だ。
「聞いてよマルエモーン」
「よいよい。またなんかやらかしたのかい」
私には強い味方がいる。ある日、家に帰ったら人のベッドにのうのうと寝転んでいた同居人。いや、同居ロボットだ。正式名は『高機能鳥型ロボットマルエモン』というらしい。
「・・・誰?」
「高機能鳥型ロボットマルエモンだよい」
初対面時の衝撃をご理解いただけるだろうか。家に帰ったら知らない人どころか知らないロボットがいたのだ。
といっても外見は普通の人間そのもの。たまによくわかんない鳥にもなったりするけど。日向にいる時は鳥になってる確率が高い。
マルエモンという名前は長くて呼びにくいので、基本的にマルコと呼んでいる。私が命名した。
「今日はどうしたんだい?」
「またあのバカ上司に嫌味言われた」
へぇそりゃあまた、
マルコに抱きつくと、くくっと笑いながら抱きしめ返してくれた。
「笑い事じゃないんですけど」
「なんだい。じゃあ一緒に腹立ててやろうか。ほんとにあいつは腹立つねい。はらわた引き裂いてやろうか」
「却下。怖すぎる」
マルコはベッドが好きだ。一緒に暮らし始めてかれこれ経つが、私が仕事から帰ってくると大抵ベッドに寝転んで読書をしている。今もそう。ベッドにいたマルコは私が帰ってくると読んでいた本を横に置き、肘を立てて身体を起こした。私がいつも抱きつくからまぁその事前準備みたいなものだろう。
マルコは未来から来た。主人に忠実なロボットらしい。
少し口は悪いけど、いつも役に立つだろう道具を勧めてくれる。
でも、私は一度も使ったことがない。
「あーもうむかつくー!」
「じゃあこれ使うかい」
「なにそれ」
「一秒で息の根を止める薬だい」
「却下」
そうかい?騒ぐ間もないから使い勝手いいのにねい。マルコが不服そうな顔で、ズボンのポケットから取り出した小さな瓶を手の中で転がす。ちゃぷんと波打つその液体で、一体何人の息の根が止められるのか。
「これも要らねぇのかい。イヤなら消しちまえばいいじゃねぇか」
「要らないよ、そんなの」
「そうかい。お前ぇのほしいモンはよく分かんねぇよい」
よく分かんねぇ、とぼやくマルコは眉間に皺が寄っている。主人の役に立つことのみが存在価値だという高性能ロボットにとって、私は非常に扱いずらい人間に違いない。
道具なんていらない。
今まで自力で乗り越えてきたのだ。
マルコの道具は確かに便利なものが多いけど、だからこそ一度頼ってしまうと自分を見失う気がする。
だからマルコの道具を使うことはない。きっとこれからも。
「ごめんね」
不服そうに口を尖らせるマルコに困りましたと眉の下がった笑顔を返して、その唇をふさいだ。ベッドに座るマルコの上に馬乗りになって首に腕を回す。分厚い唇をチロっと舐めると、マルコはくくっと喉で笑って私の唇を啄ばんで、また笑った。
好きだよ、マルコ。
この溢れる気持ちが伝わるように、目一杯の想いを込めて。
応えてくれるその唇も、腰に回った逞しいその腕も、ぬくもりも、
全部全部私を捉えて離さないのに、
あなたには恋愛感情がインプットされていない。
神というやつは乗り越えられる試練しか与えないのだという。
でも、もしも、
相手が人間ではないなら、
そんな相手を愛してしまったら、
目の前に立ちふさがる高い壁に、
私は、
「マルコ、好き」
「俺も好きだよい」
立ち尽くすしか、道はないのか。
【おなじスキでもちがうスキ】
モノジャナクテ、アナタガホシイ。