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▼ 運命拾いました

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「あ、すいませんお邪魔します。あれ?もしかして死にかけですか?」

油断していた。
まさかモビーの自室でヤラれるなんて考えてもみなかったから。
走馬灯のようにこれまでの人生を思い出すなんて、ありゃウソだな。振り返ろうとしたって出来やしねぇ。脈に合わせて傷口がジンジン傷むもんだから意識を保つことだって儘ならない。やべぇな、堕ちそうだ。

あー死ぬのか、俺。なんて諦めかけたその時、まさに命が途絶えるそんな瞬間に、暢気な声が聞こえた。

え、誰?
死にかけでも好奇心は残っていたらしい。閉じていた目をこじ開けて声の主を辿り見る。月明かりだけが頼りの薄暗い部屋に女がいた。

「え、死ぬんですか?なんで?」

助けようか?なんて随分のんびりと話す様子はまるで状況と似つかわしくなくて。
俺、今血まみれで倒れてるんだけど。背中にナイフ刺さっちゃってんだよね。ちょっとしたホラーじゃね?ていうかお前誰だよ。

意識が戻ってきた。突っ込み精神が命を救うなんて聞いたことねぇけど、実際突っ込みどころが満載すぎてウズウズしたことがキッカケだろう。って言ってもさすがに声は出ねぇから頭の中でだけ思うだけだけど。

「あぁ喋れないんですか?血が出たら喋れないの?」

−−治してあげようか?−−

…治すってなんだよ。絶対医者じゃねぇだろ。

女はただ通りすがっただけですといった雰囲気で此方に話し掛けながらも何かを探すようにきょろきょろと辺りを見渡している。そんな様子をぼーっと眺めていると「あ、見っけ」女はパッと顔を輝かせて机の上に備え付けてある棚から何かを抜き取った。
レシピだった。俺が自分で作ったマイレシピ集。今まで考案したレシピの全て。俺の血と汗と涙の結晶といってもいいものだ。

「お…い、」

それだけは絶対だめだ。
その本だけは誰にも渡したくない。
奪われるくらいなら死んでやる。あ、やべ今それ言ったらリアルすぎるか。

「これ、ください」

「…え、だめですか?なんで?」

「いやですよ、だって私これ欲しいですもん」

「あーじゃあこうしましょう!」

俺は一言も喋ってないのに、一人でぺらぺらと好き勝手なことを言った女はいいこと思いついた!とばかりに満面の笑顔で言う。

「その傷治してあげるから、この本ください!」

「…え。イイヨって?そっかそっかそうでしょうねぇ。なるほど。しょうがないなぁ今回だけ特別ですヨ☆」

やたらと勿体つけて口を休めることなく喋り続けながら女が血だまりの傍に片膝をついた。
傷口に手をかざす。
身に纏ったマントの端が血だまりに触れたから、あぁ汚れちまうぞなんてことをぼんやりと考えた、瞬間。

「アッツ!!!!!!」
「え、暑かったですか?確かにここ夏島ですけど」
「違ぇって!なんだよお前めちゃくちゃ熱かったんですケ、ド・・・あれ?」

気付けば、勢いよく飛び起きて女に文句を言っていた。

「…へ、治った?なにこれどゆこと?」
「ただの悪魔の実です。っていうか別に熱くはなかったと思いますよ。細胞にちょっとやる気出してもらっただけです。分かります?」

「…いや、全く」
「でしょうね。まぁとりあえずコレ貰って行、「だめだっての」ちょっと卑怯ですよ!返してくださいドロボー!」

「俺のだし。っていうか助けてくれてすげぇ有難いけど、そもそも俺一言も喋ってなくね?」

「心の声が聞こえました」
「いや、絶対聞こえてねぇだろ。仮に聞こえてたとしたら全くかみ合ってねぇし」

サクッと本を奪い返すと、女は慌てたようにバタバタと騒いで此方に手を伸ばしてきた。
本を持った手を頭の真上に上げる。身長差があるから当然届くはずもなく、女は両手を伸ばしてぴょんぴょんと跳ねて、届かないと気付くと、この世の悔しさを全て引き受けたかのように地団太を踏んだ。随分激しいけど口から洩れる効果音は「ムキーーーーー!!!」。
なにこいつ、超おもしろい。

「だからよ、要はお前が勝手に助けたわけだ」
「助けてって言ったじゃん!それちょうだい!!!!」

「だーめだっての。っていうかなんでこれ欲しいわけ?」
「それサッチのでしょ?!美味しいんでしょ?!」

酒場で俺の料理の噂を聞いたらしい。確かに昨日俺は料理を作った。酒屋のコックと『料理とは』と語り合った結果、すっかり意気投合してノリで作ったのだ。
俺の料理食いたいとか超可愛いんですケド。勝手に船に忍び込んでるのは頂けないけど、まぁそれはいいやと思えるほど、俺は柄にもなくこの女に興味を持った。なんていうか、傍に置いときたいというような初めての感覚。

「これはやらねぇ」
「なんで?!」

「まぁ待て。じゃあ俺が作ってやるよ」
「あんたが?あんた誰?」

「俺、サッチ」
「サッチ!!!あんたがサッチ!!!!」

「おうよ、作ってやるよ全部」
「全部!?」

「あーでも一日一品な」
「分かった!」

「よし、じゃあ親父んとこ行くぞ」
「??」

「親父にokもらわねぇと食えねぇぞ?」
「行く!」


【命拾いしたついでに、運命っぽい女も拾いました】




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