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▼ 怪盗エース

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闇に佇む屋敷。
ビルと形容してもいいだろうそれはまさに豪邸。
首が痛くなる程見上げてやっと捉えられる塀の淵を視界に定め、エースは期を待っていた。
表通りには当然警備がいるから、今身を潜めているのは隣の屋敷の草むら。背の高い木と塀のおかげでどちらからも身を隠すことができる。失敗は許されないという緊張と張り詰めた雰囲気が高揚感へと変貌を遂げアドレナリンを放出させる。ペロリと唇を湿らせ、蚊に刺された足を人差し指で掻いた。

「…さすがは白ひげ組ってとこか」

季節は夏。
ぽつりと呟いた言葉は青臭い草の熱気に溶けた。

左腕の時計を確認する。暗闇でも時刻を確認できるが非光性であるこれは、一般には出回っていない特注品だ。
深夜1:59

「いっちょかましてやっか」


踏み台替わりに幹を蹴る。この程度で揺れないことは確認済みだ。
反動を利用して塀の僅かな凹凸に指をかけた。できるだけ高い位置にと伸ばした指を支点に懸垂の要領で身体を引き上げ一気に塀に片足を掛ける。見上げるほどの高さに到達した一瞬、庭に目を遣った。
よし、気付かれてねぇ。
すぐさま飛び降りて、そのまま塀沿いに走る。身を屈めて、でも最速で。庭を突っ切り一直線に屋敷に向かえば目立ちすぎるから、闇に紛れて近づくのだ。
あれほどの高さから飛び降りて物音一つ立たないのは、天性の身軽さの成せる業だ。そして着地と同時に走り出せる脚力は身体能力の高さを如実に体現している。つまりこの仕事はエースにしかできない。少なくとも彼自身はそう自負している。

塀の角に辿りついた。屋敷のちょうど裏側だ。ボイラー室らしい倉庫のような小さな小屋の影に身を潜める。ここまで計画通り。問題なし。まずは第一関門突破だ。

ほんの僅か乱れた息を整える。いくら天下の白ひげ組の一辺を全力疾走したと言えど、角から角までせいぜい200m程だろう。この程度で息が上がるのは緊張しているからに違いないが、本人は気付いていない。ちっ。止まった瞬間、生温い風が纏わりついて思わず舌打ち。

屋敷の様子を確認する。
5階建ての2階。左から6番目の窓。そこが今回のターゲットだ。

「…マルコ、か」

今この屋敷のどこかにいるだろう人物を思い浮かべて、身を引き締める。
恐ろしいほど頭がキレる、白ひげ組の頭脳だと聞く。
あいつにだけは会いたくねぇな。
まぁ、出くわしても負ける気はしねぇけど。

さぁ、行くか。


【神の弾力トイレットペーパー窃盗事件】





ごめんなさい。本当に本当にごめんなさい。




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