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▼ 覚悟を共有するということ

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「アン!お前いいとこに来た。ちょっとここ座れよ」
「私ですか?」

食堂を通りかかったらラクヨウ隊長に呼び止められた。名前を覚えていてくれたことにまず驚いた。
数週間前まで私はとある国の護衛隊に所属していた。国の豊かな資源を狙った馬鹿な海賊に襲われているところを白ひげ海賊団に救われ、縁あってここでお世話になることになった。所属はまだ決まっていない。

「一人酒ですか?」

今日は一人で飲んでいるらしい。この状況は珍しいんじゃないかと思う。いつも目にするラクヨウ隊長は大勢で飲んでいる印象が強かったから。

「たまにはな」
「そうですか」

正面に座ると隊長は机においてあった新品の酒瓶を手に持って揺らした。いるか?ということだろう。強くないのでと断るとまぁザルには見えねぇなと静かに笑いながら瓶のまま酒を煽った。机にはグラスもおいてあるから、途中で直飲みに変えたのだろう。ラム酒の香りが鼻に届いて、なんとなくラクヨウ隊長らしいなと思った。

「でよ、お前俺の隊になりそうなんだけどいいか?」

一度所属が決まると他の隊に移動することはあまりないから、念のため確認とのことだった。

「それにあれだ、お前連れてきたのはマルコだって話じゃねぇか」
「それは関係ないですよ、きっかけをくれたことはもちろん感謝してますけど、」

ただそれだけですから。心の中で付け足した言葉がまるで自分にそう言い聞かせているようで、私は笑った。たぶん私はマルコという存在に惚れている。船に乗ったのは自分の目で世界を見てみたいと思ったからだけど、乗船を決めた理由にあの青い誇りを持つ男が1ミリも無関係であるとはとても言えない。

ラクヨウ隊長は私に一瞬目を遣って、そうか?と言いながら酒を煽る。ほんの一瞬かち合った目はまっすぐで、私の気持ちなど見透かしているような気がした。

意思を見極めているのだと感じた。
隊に所属するということは隊長についていくということだ。そして隊長にとって部下は守る対象となるだろう。おそらく時には命を賭けてでも。簡単に言うと、迷いがあるような中途半端な気持ちで着いてきてくれるなということなのかもしれない。それは私にも分かる。数週間前まで私も部下を率いる立場だったから。
大丈夫という意味を込めて笑ってみせる。力が入りすぎて少し口がアヒルのようになったけど、隊長はそれを見て満足そうにうんうんと頷いた。

「じゃあ乾杯しとくか。ほら、飲め」

ニカッと笑いながら栓抜きも使わず栓と栓をぶつけただけで器用に開けてしまった隊長は、飲みなれているというか男らしいというか。そもそもお酒は強くないと言ったはずだけど。まぁ乾杯なら喜んで頂こう。

「では、頂きます」


「ようこそ7番隊へ!!…ってこれまだ秘密だった!」

え、アンうちの隊なんすか?
まじすか!やった!

隊長の馬鹿でかい乾杯の音頭に近くにいた隊員がわらわらと集まって本当なのかと問いただす。

「おめぇら忘れろよ!俺が怒られるじゃねぇか!!」

明日までは嘘だ!などとわけのわからないことを大声で叫んでいる姿を眺めながら密かに目の前の男を見直した。隊長の中で一番馬鹿っぽいと思っていてすみませんでした。
瓶を傾けると思ったよりキツくてむせたけど、ラム酒の香りは好きになれそうだ。


【覚悟を共有するということ】

続かない。



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