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▼ Your Dream, My Dream

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「うい、お疲れー」
「おういつも悪ぃな」

ありがとなと笑うラクヨウにハンドルに凭れかかったままどう致しましてと返事を返す。年季の入ったドレッドがトレードマークのこの人と私は付き合い始めてもう四年。学生だった私は社会人になって、夢を追いかけ続けているラクヨウは今もまだ夢追い中だ。

店の前に停めていたちっこい車にラクヨウが乗り込んだのを確認してアクセルを踏んだ。大人二人はキツイんだろう、まるで気合をいれるように車がブブンと唸った。狭い車内で背中を丸めているラクヨウは窮屈だろうににこにこと楽しそうに笑っている。おっさんなのに可愛いんだこの人は。

「お、なんだお前風呂入ったのか?」
「んー?そうそう、先入って来たー」

ラクヨウはパンデイロやスンガという打楽器の奏者だ。何それ?と今あなたが思ったように世間ではとてもマイナーで、いくら演奏が上手くてもその世界では名が知れていてもそれだけで生きていくことは非常に困難。だからラクヨウはこうしてアルバイトをしている。

一緒に暮らすアパートから電車で3駅行ったところにあるバー。気のいいオーナーが経営していて、小さいけど音楽に包まれたあったかい店。
ラクヨウはそこで演奏をしたり働いたりしている。誰とでもすぐに打ち解けてしまうような人だから老若男女問わず人気者らしい。

「腹減ったなぁ。あ!お前ちゃんとメシ食ったか?」

ラクヨウは一人で7人分くらいは騒がしい。シャンプーの匂いをすんすんと嗅いでいたかと思ったら脈絡なく腹が減ったと言って、かと思うとくるっと此方を向いて私の心配をする。勢いよく此方を向くもんだからドレッドが一拍遅れでペチッと顔に当たってイテなんて。

「まだ食べてないよー。ごめんなさーい」
「え!やっぱ食ってねぇのか?!」

ハンドルを切りながら反省の色のない返事を返す。運転中だから見れないけど、目をぱちくりとしているだろうことが容易に想像がついてふふふと笑いが零れた。

「だって一緒に食べたほうがおいしいじゃん」
「ダメだダメだちゃん先に食わねぇとあれだ。倒れるぞ?」

「んじゃどっか寄って帰ろ?私あれがいい。モビーのチョコパフェ!」
「おぉ!いいなそれ。そういやサッチのやつが今いちごフェアだっつってたぞ」

いちごパフェとかあるかな?
そりゃあるだろ。いちごフェアだぞ?
いちごだパフェだと話しながら、道路を大きくUターンして来た道を戻る。こうやって急カーブをすると、ラクヨウはいつも大袈裟に体を倒してぎゃあなんてはしゃぐから、車内は笑いで溢れ返って大騒ぎ。

もう深夜に近い時間。対向車線をすれ違う車なんて殆どなくて、窓からは少し肌寒い風と虫の声が入ってくる。
スピーカーからは陽気な音楽が流れて、私たちはパフェだパフェだと騒ぐ。

幸せだなと思う。
こうして他愛のないことで笑い合えることは、
そういう相手と出逢えたことは、
きっととても幸せなことに違いなくて。

「そういえばそろそろ貯まるんじゃない?」
「そうなんだよ。来年には動けそうかもなー」

私たちはもうすぐアメリカに行く。ラクヨウの才能はこの国じゃなかなか活かすことができないけど、多くのアーティストが集まるあの国だったらきっと認められるに違いなくて。実際ラクヨウにはちらほらと競演の声が掛かっていたりなんかする。

この人はきっとどんなに大変なことがあってもこうやって笑って生きていける、そういう強さを持った人で。
そんなラクヨウの隣にいられることがとても嬉しい。

今更とかいい歳なんだしとか。そりゃ色んなことを言われるけど、
夢に生きる、なんてかっこいいじゃないか。
夢に生きることに、年齢なんて関係ないじゃないか。

助手席からラクヨウの口ずさむ陽気なリズムが聞こえて来て、楽しくなった私は音に合わせてでたらめな歌を歌った。


【Your Dream, My Dream】
「てかパスポート写真にドレッドってOKなの?」
「え!!!ダメなのか?俺ぜってぇ切らねぇぞ?!」




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