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▼ 平凡な僕らの楽しい日常

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caution
オタク気味地味マルコです。




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平凡ってのが具体的にどういうやつを指すのかはわからねぇけど、仮に世界中の人間を分類するとしたら、たぶん俺はごく平凡なサラリーマンなんだろうと思う。きっと、いや、絶対。

「もしもし」

残業明けの仕事帰り。ただでさえ重い身体は満員電車に揺られてガチガチだ。肩凝りどころか首も背中も重い。
今週末はマッサージだねい。30分。いや、待て。給料も入ったことだしここは豪華に1時間全身もみもみコースでゆっくりと揉みほぐしてもらうのもいいかもしれない。
寿司詰めの満員電車の中で、肩や背中を揉まれている様子を想像してみる。
…いい。完璧だよい!最高じゃねぇか。やっぱ一時間全身もみもみコースに決まりだよい!
久々に有意義な週末になりそうだ。

心なしか軽くなった身体で最寄り駅の改札を抜けると、スーツのポケットが震えた。携帯を取り出すとアンの名前。
嫌な予感がした。暫く携帯を見つめたが、一向に切れる気配がない。これは出るまで鳴り続けるパターンだ。何故分かるのかと言うとアンからの電話はいつもこうだからだ。つまり他のパターンは存在しなくて、俺は電話に出ざるを得ない。
人波から外れて駅の隅に身を寄せる。「あ、すみません、よい」後ろから来たスーツのおっさんと軽くぶつかって、軽くお辞儀をしながら通話ボタンを押した。

「あ、マルコ?聞いて、ワンピ展のチケット取れたの!あー楽しみ。きゃー楽しみ!あのねっ今回はなんとローのフィギュアが、」

電話がつながった途端に耳に飛び込んで来たアンの声は非常に浮かれていた。ワンピ展?あーあれかよい。
俺はノンストップで語られるローの魅力(萌えを通り越して、悶えるような存在らしい)を一通り聞き流した後「そりゃあよかったねい。楽しんでこいよい」爽やか且晴れやかに言った。つい先ほど、全身もみもみ一時間コースを脳内でリアルに疑似体験したおかげだ。

「今週土曜だからね。何時にする?」

やっぱりか。話の流れからそう来るとは思ってたけどな。
さも当然のように俺を同行させるつもりのアンにきっぱりと告げる。

「行かねぇよい。俺ァ今週予定があるんだ」
「あははなにそのドヤ声。マルコに予定?冗談やめてよー」

「じょ、冗談じゃねぇよい。俺は予定があるんだよい」
「よいよい。全身もみもみ1時間コースかよい?」

「よっ、マネすんじゃねぇよい。全身もみもみ一時間コースのどこが悪ぃんだよい!そもそも俺はワンピースなんて興味ねぇつってんだろうが、隈野郎なんてどうでもいいよい!」

「興味ないわりに隈野郎だなんてよく知ってるじゃない」
「ローに隈があるのなんて常識だろい?」

「なるほど常識ね。親父の原画とかあるかもよ?」
「そりゃあ確かな情報かよい?嘘だったら俺ぁもう正気を保てる自信がねぇよい」

「なにそれウケる。あーでもワンピ展を堪能した後の全身もみもみは格別だろうねー?」
「…もみもみしていいのかよい?」

「もちろん!しかももみもみ90分に格上げでどうだ!?」
「もっ、きゅっ…ゴホン。しょうがねぇから行ってやるよい」


アンと俺は付き合っているわけではない。
でも単なる友人とは少し違う気がする。

「ではマルコ殿。週末に備えて予習を忘れぬように」
「あぁ了解」

アンとの電話を切ってすぐにもみもみ90分を二人分予約した。
夜道は暗くて寒いけど、俺はなんだか楽しくなって「よい」と無意味に小さく呟いて一歩だけスキップした。
恋愛なんてのは生憎かれこれ数年ご無沙汰だからよくわからねぇけど、アンとのこういうやりとりは嫌いじゃない。

「案外あいつなのかねぃ」

なにが、とはっきり口に出すことはまだしないけど、少なくとも俺は来年も再来年も、例えば俺が皺くちゃの爺さんになっても隣で笑ってるアンを想像できるから。

平凡の定義なんてのはよくわからねぇけど、週末のマッサージが楽しみでアニメにちょっと詳しい俺と、俺以上にアニメに詳しくてマッサージがちょっと好きなこいつも、きっとごく平凡な人間で、でもそんな俺たちの日常は生憎すこぶるハッピーだ。



【平凡な僕らの楽しい日常】
もみもみ2時間コースですね?
ん?90分で予約した筈なんだがねい。
あ、私2時間で予約しなおしたんだー。
サ、サプライズだよい!



平凡のどこがわるい。



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