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▼ 一番大切な言葉を伝える場所にだれもが急ぐ、Christmas

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「エース、会いたいよ」

いつもいつもアンの声は携帯を通してしか聞けなくて、いい天気だと言うアンに窓の外を見上げたって、こっちはどんより曇り空で。
なかなか会えないし連絡の取れない日だってある。
会いたい。アンの呟くその言葉が嬉しくて歯がゆくて、俺だって会いたいんだと伝えるけど、伝えれば伝えるほどお互い辛くなって。でもやっぱり会いたいと思う。

「エンキョリの馬鹿野郎」

距離なんか関係ねェ。
毎月会いに行く。
そんな誓いや約束も、仕事という言い訳で反故にしてばっかの俺だけど、今日は、今日だけは何が何でも会いに行くんだ。
会社を出ると街中がキラキラと輝いていて、俺はスーツの上に羽織ったコートの右ポケットに手を入れて、小さな四角い箱をぎゅっと握りしめる。

時刻は20:40
新幹線の最終は21:18

目を瞑って、スゥと大きく息を吸った。
軽く膝を曲げて、カップルが寄り添って歩く通りをキッと見据える。

「っしゃあー…走れっ俺!!!」



「絶対会いに行くからな!」

いつもいつもエースの声は、携帯の中からしか聞こえなくて、その声はとても暖かいのに、私の手は冷たいままで。
会いたくて会いたくて、でも会えなくて、遠い遠い夜空の果てに心を繋いだ。
すげー会いたい。エースの掠れたその声からエースの想いが伝染して、でも結局まだまだ会えないことは分かってるから、電話を切った後、一人ひそかに泣いたりして。

時刻は20:40
新幹線の最終は21:18
到着予定は23:48
連絡は、ない。

昨日確かに絶対会いに行くとエースはそう言ったけど、この時期なのだ。仕事も忙しいに違いなくて、実際には来れないんじゃないかとか、むしろ来れる可能性のほうが少ないんだろうとか。そんなことを考えながらもこの日の為に選んだ服でおめかしして、鏡の前でドキドキ高鳴る胸を押さえて深呼吸なんてして。

「会いたいよ、エース」


もうすぐ、あなたを乗せた電車がやってくる。
もうすぐ、あいつの待つ駅に着く。

改札を抜けて、ホームに走る。
ドアを押しのけ、ホームを駆ける。

早く、早く。
会いたくて胸が苦しくなる。
つのる想いが甦る。

どんな言葉で迎えようって探すけど、顔を見たら忘れそう。
どんな言葉で伝えようって考えるけど、顔を見たら吹っ飛びそうだ。

「アン!!!」
「ッ…エース」

言葉なんて必要ない。ただぎゅっとぎゅっと抱きしめられたら、それでいい。
そう思うけど、あぁでもやっぱり、俺にはどうしても伝えたい言葉がある。
ポケットを探って小さな箱を取り出す。
はっと息を呑んだアンに小さく笑って、深呼吸して、90度のお辞儀をした。

「メリークリスマス。俺と結婚してください!」


【一番大切な言葉を伝える場所にだれもが急ぐ、Christmas】

Sweet Happy Christmas!



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