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▼ さよならの色が目に沁みて

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世界は一つで、皆平等。
それはとてもありふれた言葉で、何故ありふれているのかと言うと、世界は一つでもなければ不公平で溢れかえっているからだ。つまりただの理想論。そうなればいいねという眩しい希望の裏には、無理だけどという暗い絶望が潜んでいる。

住む世界が違う。
ごく一般的な庶民育ちの私と大病院の御曹司という立場にあるロー。そもそも出会ったこと自体が奇跡で、そんな私達がお互いに惹かれ合ったことはもうなんと形容すればいいのかさえ分からない。

それでも私たちは惹かれ合った。
特別な才能も取り柄もない私をローは愛しいと言ってくれた。愛してくれた。

貴方には夢があった。
貧困国の医療従事者を育てること、自国でワクチンを作るシステムを構築すること。
ビジネスになるからだとローは言うけど、本当は違う。本当の意味での支援というのは自立を促すことで、衣食住各分野でのサポートは確かに進んでいるけど、こと医療面に関してはボランティアに近い形での医師団によるケアが主なのが現状だ。何故なら時間と費用が途方もないから。

それをどうにかしたいというのがローの夢だった。
その為には病院を継ぐ必要があって、より良い相手と婚姻関係を結ぶ必要がある。

貴方の隣に立つべきは、私じゃない。

携帯が震えた。
手にとって名前を確認する。

ローだった。
珍しいと思うと同時に、私の心はトクンと音を立てる。

トクン、トクトク。
嬉しい、ウレシイ。

大切な宝物を抱きしめるように、祈りを捧げるように、両手できゅっと携帯電話を包み込んだ。

その電話にもう出ることはないけれど。


【さよならの色が目に沁みて】




アンの様子がおかしい。
前から変な女ではあったけど、連絡を欠くようなやつではなかった。
どうでもいいようなメールも頻繁に届いていたし、最近はスマホに変えたのだ何だのと騒いでLINEでそれこそ返事に困るようなことばかり送ってきていた。
本当に中身がないのだ。笑えるほどに。

俺は返したり返さなかったりだが、それでも届く内容はいちいち確認していたし、勉強漬けの生活の中での息抜きとして少し楽しみにしていたりもした。

その連絡が昨日の夕方からぱたりと途絶えた。
どうしたのかとメールもしたし、電話もかけたが、繋がらない。

今日は月曜。
11:00a.m

午後からは必修の実験があって、落とすわけにはいかない。

俺は時計に目をやって、一つ舌打ちを零して、大学を抜け出した。


【今どこで何を、】
お前のことは何でも把握しておきたいなんて、口が裂けても言わねぇが、




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