▼ just a friend
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私には好きな人がいる。
片思いだ。
一目惚れだった。
太陽みたいに笑い、海を見つめる真っ直ぐな瞳。
普段のおバカな顔、敵と対峙する悪い顔。
とは言っても、あっという間に隊長に駆け上がったエースと話す機会なんて殆どなくて。私はいつも甲板の端からその後姿を眺めているだけだった。笑っている顔を見られるだけで一日頑張れた。思えばこの時はまだ“憧れ”だったのかもしれない。
いつしか私たちは“バカ二人”とセットで呼ばれるほど仲良くなった。弱い部分も見せてくれた。「親父にしか話してねぇ」と特別な秘密を教えてくれた。明るいだけじゃない彼の中身を知った。
大雑把で繊細。
末っ子でお兄ちゃん。
お馬鹿だけど的を突いて。
猪突猛進のくせに、傷つきやすくて。
こんなにこんなに好きにさせといて。
「好きな奴ができた」とあいつは言った。
【あなたの気持ち≠私の気持ち】
あいつは恋愛のレの字も知らない。
女よりも肉。肉よりも海。そういうやつだ。
だから私は想像もしてなかった。
あいつがあんなことを言い出すなんて。
「アン、入るぞー」
ある日の夜。そろそろ寝ようかという時間にエースが部屋にやってきた。ていうか返事聞く前に入ってきてるよね?いつもは我が物顔でベッドを占領するのに、どうしたわけか今日は居心地悪そうにしている。
「座れば?」
お、おう…とそわそわしつつもベッドの真ん中にドンと腰をかける。ふふふ、思わず笑みがこぼれる。私はこういうところも好きなんだ。
「どうしたの?なんかあった?」
書類なら手伝わないよー。
私は前の島で買ってあったお酒をグラスに注ぎながら軽口を叩く。
「おう、サンキュ。ってこれ、甘ぇやつじゃねぇか!」
「知ってる。私のだし。ついでにエースが甘いお酒あんまり好きじゃないのも知ってる」
性格わりぃー。エースが大口を開けて笑う。あ、いつものエースだ。
「だってこれしかないし。いらないなら取っておいでよ」
さぁほら、マルコの待ち構える食堂へ!私はしてやったりという顔でへへんと笑った。
【こんな日常がずっと続くと思ってた】
「俺好きな奴ができた、かも?」
ひとしきり笑ったあと、すっと表情を戻したエースはそう言った。無意識に詰めていた息をヒュッと吐き出し冷静を装う。
「なんで疑問形よ?」
バカじゃん?あんた。
「いや、な?なんかよくわかんねぇんだけど!俺レンアイとかしたことねぇし!」
気持ちの混乱を体現するかのようにアワアワとしゃべるエース。
「でもなんかあいつ見てたらこの辺ドキドキすんだ」
これって“スキ”ってやつだろ?
エースは逞しい胸板をドンドン叩きながら、心なしか赤い顔で嬉しそうに笑った。
心臓が。
握りつぶされるように痛んだ。
「なぁ、アン。こういう時どうしたらいいんだ?」
やめて。いやだ、聞きたくない。
「オレ、お前にしかこんなこと話せねぇし」
困ったように笑うあなたは、私を一番困らせる。
「そか、うん。頑張って」
【心の近さ≠レンアイ感情】
応援する、なんて台詞はとても口には出来なかった。
こんなことなら憧れのままで。