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▼ 密やかな独占欲

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リンリンチリン
モビーは今真っ白だ。なにがって洗濯物でだ。

ここ数日雨が続いていた中での晴れ間。しかもここはグランドラインだからまたいつ天候が崩れるかわからない。というわけで、今日は特に作業が割り振られていなかった2番隊と16番隊が溜まりに溜まった洗濯物をひたすら干している。

「エース隊長サボらないでください!」

アンが手で広げたシーツから顔を出す。
こいつは16番隊の女クルー。獲物はピストル。ちっこいナリして結構気が強い。そんで狙撃の腕がいい。後方からの的確な援護射撃を得意とするアンは我先にと突っ込んでいく野郎の多い2番隊に是非欲しい存在で、俺は以前うちの隊にくれないかとイゾウに掛けあったことがある。

「ダメだ」

瞬殺だった。イゾウはこちらに目さえ向けず俺の言葉を遮るように言い放った。話は終わりだとばかりに平然と煙管を燻らせる横顔に、やっぱ自隊のやつはそうそう手放さねぇかと詫びを入れて俺もあっさり引き下がった。まぁ俺が2番隊の陣形をもっと考えたらうまく回るかもしれねぇしな。

ところがその翌日、別のやつが送られてきた。
別に絶対アンじゃないといけないわけじゃなかったから喜んでその申し出を受け入れたけど、なんでアンはだめでそいつならOKだったのかよく分からない。狙撃の腕で言えばどちらかというとアンより俺のとこに来たヤツのほうが上だろう。アンは俺と同じ年だからまず経験値が違う。俺だったらたぶんアンを送り出す。もちろん自隊のやつは全員大事だが、送り出す先も仲間のところなのだから隊長と本人の間で同意がなされれば全くない話でもない。テキザイテキショってやつだな。ん?合ってるか?

「こら、エース隊長聞いてますかコノヤロウ」
「いや聞いてねぇ。なんだ?」

はっ?有り得ないこの人という顔でまじまじとこちらをみるアンに言葉を返そうとしたら、湿気を含んだ強い海風が甲板を吹き抜けた。

リン

「なぁアン。お前この前からそれ何鳴らしてんだ?」

俺はここ数日の疑問を口にする。先程からアンの動きに合わせてリンリン聞こえるのだ。声を掛けた先いるアンは突風で煽られたシーツが体に張り付いたらしい。オバケ状態だ。モタモタと体からシーツを引き剥がしたアンはなんだか疲れていた。

「あー干す前のシーツって無駄に重いっ張り付いて気持ち悪いし」
「で?なんの音だ?」

シーツオバケには聞こえていなかったらしい。俺は再度尋ねる。正直この前から気になってしょうがなかったのだ。直属の部下ではないから食堂で顔を合わせるくらいしかないし、下手したら数日見かけないこともあるけど、俺が最初に気づいてからでも少なくとも数日間こいつはリンリン鳴らしつづけている。

「あぁこれ?イゾウ隊長がくれたの」

心なしか嬉しそうに顔を綻ばせたアンは、ポケットを探って赤い紐のついた鈴を俺の目の前にかざして揺らした。

リンリン

「なんだこりゃ。鈴か?」

なんで鈴?っていうかこんなん鳴らしてたら戦闘の時不利じゃねぇのか?


「アン」

なお浮かぶ疑問を重ねようと思ったら船内へと続く扉からイゾウがアンを呼んだ。パッと反応してそちらに駆けていく。素晴らしい従順さだ。うちの部下に見せてやりたい。

リンリンリンリン、リンリンリン

少しずつ小さくなっていく鈴の音に、なんかペットみてぇだなと思った。そういやステファンの首輪にもついてたな、ああいうの。



【密やかな独占欲】
(っていうかイゾウも洗濯しろよ。似合わねぇけど)




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