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「ねぇロー、ここわかんない」
「どれだ」

次の日、私は図書館にやってきた。勉強をするためだ。サッチは勉強しろとか全然言わないからつい忘れてしまうけど、私は一応受験生なのだ。

「アン、お前こんなのも分からないのか?」
「習ってないよ、たぶん」

「んなわけあるか、同じクラスだろうが」
「じゃあ休んでたんだね。残念」

アホか、そう言って小さく笑ったローが隣の席から私の教科書を覗く。真剣というか真顔というかただの素というか。ローのこういう表情はかっこいいなと思う。学校中の女の子がキャーキャー言うのも納得。

ローは頭がいい。
実は面倒見のいいやつだと知ったのは三年で初めて同じクラスになってからで、それまでは部下を従えたいけ好かない俺様だと思っていた。ごめん。折角の週末にわざわざ時間を裂いて勉強を教えてくれるのは、たまたま私が看護師志望だと知ったローが私のオバカ加減を心配してくれたからだ。
ローは医学部を志望していて、私は同じ大学の短大が第一志望だから受験科目も重複するものが多い。当然ながら偏差値的には医学部のほうがずば抜けて高いけど。
真剣な横顔をじっと見ていると別のものに目がいった。勉強に集中しないといけないのは分かってるんだけど、

「…帽子熱くない?」
「黙ってろ」
「でもそろそろ丁度いい季節だね。真夏に被ってる時はさすがに頭可笑しいんじゃないかと思っ、わっ」

教科書に視線を落したままローが自分の帽子を取って私に被せた。頭に載せるんじゃなくて目まで隠れるようにカポッと被せてくる辺り、絶対わざとだ。ていうかやっぱ熱いじゃん、これ。
文句の一つでも言ってやろうと帽子に手を掛けたけど、見えないのをいいことにローはあっさりその手を掴んで「手はおひざ」。

「プッあはは!ローそれ全然似合わないし」

淡々と言いながら掴んだ手を私のひざにポンと戻したローに大笑い。ローらしくない謎の発言と、でもその一連の言動を此方を見ることもなくやるところがローらしい気もして、私は顔まですっぱりもこもこに埋まったままケラケラと笑った。

「安心しろ、こんなことすんのはお前にだけだ」

おひざ、から手を伸ばして帽子を取ろうとすると、ローがそれを阻止するようにまた帽子を抑えた。
頭の上から静かな笑い声が聞こえる。見えないけどローはきっといつもみたいに少し目を細めて笑ってるんだろう。そう思うと私はなんだか嬉しくなった。

「そっか!そのほうがいいよ。だって手はおひざとか…ププッ。ってイタッ!痛いイタイ」
「聞こえねぇ」
「ゴ、ゴメンナサイ!」


気を取り直して勉強を再開。
ちなみにローはへそを曲げるともう絶対に教えてくれない。何を話しかけても私の存在丸ごとツンと無視されてしまう。しかもこりゃだめだと諦めて席を立とうとすると、どこに行くんだと更に不機嫌になるのだ。

「ここにXを代入して…、」
「うん」

もうしません、ローは最高にかっこいいですと何度も頭を下げて漸く機嫌を直してくれたローが私のノートにさらさらと公式を書く。私はというと、公式なんかよりも今度は目の前で動くローの手が気になる。私が悪いんじゃない。ローの手が綺麗なのが悪いんだ。すらりと伸びた長い指も決して女っぽくはなくて、綺麗なのにちゃんと男の人の指。あ、手が綺麗だから字も綺麗なのかも。そういえばサッチの手はごつごつしてるし、字もキレイとは言えない。汚くはないんだけど、

「なんていうか…特徴ありすぎ?」
「お前の頭の話か?」

「え?」
「全部口に出てるぞ。見惚れてねぇで集中しろ」

「おっとそれは失礼。って別に見惚れてたわけじゃないよ」

私が至極真面目な顔で見惚れてないと言うとローははぁとため息をついてついにペンを置いてしまった。
あぁ、また機嫌を損ねてしまった…

「…お前なァ、普通少しは照れたりするだろこういう時」
「こういう時?」

え?私が首を傾げると、ローはまた目を細めて笑って言った。

「それはまたおいおい教えてやる」
「教えてくれるの?え、なにを?」

「あぁ教えてやる。アンは俺の女だからな」
「え?」

そうなの?私ローと付き合ってたの?!全然気付かなかった!
突然の事実に私はとても驚いた。そんな私を見てローはまぁ落ち着けとばかりに私の肩に腕を回して引き寄せる。

「だろうな。言ったことなかったからな」

とんとんと宥めるように肩をたたくローに、落ち着かなきゃいけない気がして深呼吸。心臓に手を当てるとものすごくバクバク鳴っていて、あれ?私もローのことが好きだったのかなという気がしてくる。

「…い、いつから?」
「4月。10ヶ月前からだ」
「新学期からか!!!絶対ウソじゃん!」

「嘘じゃない。それに何をしても照れないアンもなかなか可愛いけど、俺は興味があるんだ。アンがどんなことをしたら照れるとか真っ赤になって恥ずかしがる顔とか…あぁ目に涙溜めてたらもっとい、」
「変態か!やだなにこわい!」

いいか涙は流すんじゃないぞ、ギリギリまで溜めろ。
真剣な顔でそう訴えるローに私はドン引きして、逃げ帰った。


【た、助けておにいちゃん!】
友達が彼氏で変態なんです!

「やだもう帰る!」
「あぁまた明日な」
「うんまた明日ねバイバイ!!」




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