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▼ 強引マイウェイ

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「何やってんだ?」


空から声が降ってきた。
私の単調でつまらない一日はその声に塗り替えられた。
ポンと弾むような楽しげな声だった。
私は手で太陽を遮り見上げる。
春島の初夏。心地いいというよりは少しだけ暑い。春というよりは夏。まさに初夏だ。

声の主は私が働いてる酒屋と隣のクリーニング屋との塀の上にいた。逆光で顔は見えないけど、赤い髪が太陽の光で透き通っていてとても綺麗だった。

「えっと・・酒瓶を片付けてます。ど、どちら様でしょうか?」
「シャンクスだ。で、何してんだ?」

シャンクス・・さんでいいのかな?名前が異様に早口だったから合ってる自信がない。

「それ捨てるのか?なんでだ?」

なんでなんでなんで。自己紹介よりも私が捨てているお酒が気になって仕方ないらしい。

「はい、捨てるんです。昨日のお客さんの残りだから」

瓶に残った酒を排水口に流して、ケースに12本溜まったら5歩あるいて積み上げる。単純だけど重労働。しかもここは酒屋の裏手。狭くてジメジメだ。シャンクス・・さんが塀の上で器用にしゃがみ込んだ。

「へー随分もったいないことするんだなぁ」

体勢が低くなってやっと見えた顔は随分若い。少年だ。あ、でも同い年くらいかも。いや、年上かな?
もったいないという顔はとてもにこにこと楽しそうで、残念そうな口ぶりとは全く合っていなかった。むしろでどうでもよさそうだ。自分で聞いたのに。私はそれが可笑しくて笑ってしまう。

「いりますか?」

立ち上がってロングスカートを叩きながら、中身が入ったまま新品同様の酒瓶をシャンクスさんの足元に掲げる。思えば結構な高さだ。すごいな。

「おうありがとな」

ニコニコ笑って受け取ったシャンクスさんはそのまま一気に酒を煽った。赤い髪が太陽の光を受けてキラキラと輝いて、腰にさした剣の柄が鈍く光る。たぶん海賊かなにかだろう。随分若いけど。目を細めて美味しそうに鳴る喉にドキッとした。

「・・・あっ知らないおじさんと間接キスかも知れませんね」
「げーっそれサイアクじゃねぇか!なんで言ったんだ!」

シャンクスさんはバタバタと両手を動かし、全身で抗議した。かと思うと口をとがらせて、拗ねた。

「言わなきゃ気づかなかったのに・・」

表情のころころ変わる人だ。楽しい人だなぁ。
でも今は仕事中。作業に戻らなきゃ。

「あのシャンクス・・さん?わたしこれ片付けないといけないので」
「なんだ、まだやるのか?随分仕事好きなお嬢さんだなぁ」
「す、好きなわけじゃないですけど仕事なので・・・きゃっ」

シャンクスさんが突然シュタッと降りてきた。隣に並ぶと思ったよりも背が高くてドキドキした。
じっと顔を見つめてくるから私も見つめ返してしまう。シャンクスさんは私の顔にそっと手を伸ばして頬を撫でた。少し切れ長の目を更に細めてこちらを見るその目はとても色気があって。
キスされる、と思った。
覗きこむように顔を近づけてきたシャンクスさんはにこりと笑った。

「デートしようぜ」


突然、初対面の男の子にキスをされそうになったら。うっかりかっこよくて、まだ少年なのに色気があって、さっぱり話の噛み合わない人だったら。どうなる?
私は固まった。
で、でーと?停止した頭をゆっくりと働かせ言われたことを噛み砕いて出た言葉は「え?」。なんでデート?

「手伝ってやるよ。さっさと終わらせようぜ」

酒瓶の詰まったケースを軽々と持ち上げ笑うその顔はとても眩しくて、言っていることは恐ろしく脈絡がない。同意した覚えはないのに、いつの間にやらこのあとの私の予定は決まっているらしい。なんだか盛大に巻き込まれている。すごく自由でマイペースだけど、イヤな気は全然しない。断るべきなんだろうけど、なんとなく言ってもムダな気がしてやめた。


【強引マイウェイ】
「飽きたな。行こうぜ!」
「え?!まだ半分も終わってない・・」


謎の種明かしは【ひたすら】20にぽろり




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