2年1組の10分休憩

「なまえって神の化身やと思うねん」

「何、急に。こわ」

授業が終わるチャイムが鳴ると同時に治が振り返り、後ろの席に座る角名にひどく真面目な顔で話し出した。

「なまえはむっちゃ可愛いやんか」

「うん」

「それに、むっちゃええ子やんか」

「まぁ、そうだね」

治は普段であれば寝てるか、何か食ってるかのどちらかが多いのだが、角名に真剣に話す様子に他の生徒はバレーの話でもしてるのかと邪魔したあかんなと近寄るのを控える。実際は溺愛してる従兄妹の話であるのだが。それも彼女の惚気をするように。

「この間もツムがなまえが楽しみにしとったおやつのねるねるねるねの2の粉ぶちまかしても、怒りもせんと他におやつあるから大丈夫やでって慰めてんねん」

「もう侑よりお姉さんじゃん」

ねるねるねるねの2の粉がなければ色も変わらないよく分からない物体でしかない。1番の楽しみを台無しにした侑に優しく声をかけるなんて治は信じられないとでも言うような顔だった。

その時の様子が簡単に想像がつくのは、角名も日頃からなまえと侑のやりとりを見ていてうすうす気づいていたからだろう。侑はなまえの面倒を見ているつもりだろうが、たまに逆なんじゃないのかという場面に遭遇することも多々ある。

「ささくれできたって大騒ぎしてなまえの気に入ってたうさぎのバンドエイド最後の一枚使うた時も痛いの痛いの飛んでけ〜ってしとるし」

ああ、そういや図体に似合わずピンクの絆創膏をつけてたなと思い出す。相手にすると面倒なのであえて知らないフリをしたがどうやらあれはなまえのだったらしい。

「あいつ、最後の一個のおやつとかでも遠慮なしに取りやるからな。流石に俺でも気ぃ使うのに」

「…へえ」

どの口が言ってんだと思いながら相槌をうつ。部活帰りにコンビニに寄った時、大概なまえの購入した物を半分以上食べてるのは目の前の治である。

「とにかくな、今まで天使みたいやな思っとったけど、慈愛に溢れすぎて神の使いの天使を超えてむしろ神さんなんかと思ってきてん」

日頃連れ回したり、なまえが他の奴にくっついてかまってくれないと文句を口にする侑と違って治は基本的になまえを見守る優しいお兄ちゃんに見えるが、この言動を聞いてる限りやっぱり侑の片割れだと角名は思う。

「北さんも神様はたくさんいるって言ってたし、何を信じるかは個人の自由だと思うよ」

「せやな。あとな…」


角名はなまえのことは可愛いと思っていても治の話はめんどくさくなったので適当に話を合わせる。しかし、まだまだ続きそうななまえの惚気を止めさせるためにスマホのなまえフォルダから動画を一つ再生する。食い入るように見た後は何も言わずにまた再生ボタンを押す治に、尾白がいなくても双子を黙らせる方法を見つけたと内心ガッツポーズする角名だった。



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