隠しきれないその恋は


『三ツ谷ぁ!これ俺の幼馴染。みょうじなまえな』

『は?なまえは俺の幼馴染な。ちなみに怒らすと怖いから気をつけろよ』

『マイキー余計なこと言わないで』

みょうじの最初の印象はよく笑う子。屈託なく、それはもう楽しそうに、鈴が鳴るように笑うから見てるこっちまでつられてしまうくらい。だからマイキーや場地がわざわざ連れてきて一緒にいたがるんだと聞かなくとも理由が分かった。

『私、触らないでって言ってたよね』

『いやぁ…』

『ねぇ、言ったよね?』

『マイキー怒られてやんの〜』

『場地、一緒に遊んでたアンタも同罪だからね?』

『…』

あとは、意外と手が出るのが早いこと。いまだにマイキーの胸ぐらを掴んだ女の子はみょうじ以外に見たことがない。マイキーが大事にしていた宝物をぶっ壊したのが原因とはいえ、可愛いらしい外見からは想像できなくて最初は驚いた。無敵のマイキーや、考えるより先に手が出る場地がみょうじに怒られるとタジタジになるのは見ていておもしろかった。

幼馴染というより仲の良い兄妹みたいな2人と違って学校も違うし、みょうじが毎回マイキーに付いてくることもなかった。だから久しぶりに会って、少女から女性へと変わっていくみょうじを見る度にどんどん目が離せなくなっていった。 

よそよそしい態度を取ることは俺以外にもあったし、いわゆる年頃特有のものなのかなと思っていた。でもドラケンのことが誤解だと分かって、自分の気持ちと向き合ってからみょうじの態度がもしかしてと俺の欲を掻き立てる。

『三、三ツ谷!』

自分の都合の良く考えてるだけかもしれない。ただの自意識過剰かもしれない。でもたどたどしく呼ばれる名前や、控えめに向けられる視線、見つめると困ったように下がる眉毛、はにかんで小さく笑う顔。マイキーや場地の前の活発なみょうじとは違う俺にしか見せない姿が、みょうじも好きでいてくれてるのかもなんて淡い期待がどんどん膨らんでいった。

ゆっくりと関係性を深めていければと、確信に変えていければと思ってたのに。ポッと出てきた場地の後輩と仲良さそうにしてるから、あまりにも距離感が近くてムカついた。くっそカッコ悪いけど邪魔するように割り込んだ自分がいて、思ったよりみょうじに惚れ込んでることに驚いた。

『なぁ、さっきの続きそろそろ言っていいか?』

『や、待って。ほんと、やめて…ッ』

『やだ、やめない。みょうじが思ってるより優しくないし』

でもみょうじからしたら後輩か友達かの違い。止める権利も怒る権利も何もない。答えが出るのは簡単だった。だったら自分のものにするしかない。何がなんでも、否が応でも。前に『三ツ谷は優しいね』と言われたけど、みょうじが思うような優しい男ではない。欲しいものは力づくでも手に入れる根っからの不良だ。

『好き。俺と付き合って』

『〜〜ッッ』

『…俺、”意地悪”だから返事は待てねぇよ?』

___


「今日、集会だっけ?」

「おー。でも集会まで時間あんだよな」

「じゃあ家くる?」

そうして強引に手に入れたなまえはまだ彼氏彼女の関係に慣れてないのかすぐ挙動不審におちいる。なまえと呼べば目が泳ぎまくるし、近づけば逃げるし、頭からぷしゅーと湯気が見えるくらいすぐにキャパオーバーする。そのクセ「今日誰もいないんだー」と呑気に話すのは警戒心がないとしか思えない。

家に誰もいないなんて襲って下さいって言ってるのと同じだろ。けれどそこまでガッついたら逃げるどころか怯えられてしまうのは明らかで、ニコニコと純粋にお家デートを楽しみにしてなまえに微笑み返す。今みたく、自覚なしにとんでもない殺し文句を言う時があるのは本当に勘弁してほしい。これでも一応色々と自重はしている。

「なまえ」

自重するとは言っても、やることはやりたいお年頃。長年の好きな子ならなおさらだ。子供じゃあるまいし、手を繋ぐのは自分の中ではセーフと思ってるので小さなその手を掴む。

「!」

「息、しような」

悶々とする俺の気持ちなんか気付きもしないなまえに腹いせで指を絡めとるように恋人繋ぎをしたらピシッと固まって動かなくなったのはちょっと笑えた。すぐに空いてる方の手で口元を隠して誤魔化したけど、バレていたようでなまえは悔しそうに睨みつけてくる。

そんな姿でさえ愛しく思えて思わず可愛いと口にしそうになったけど、それこそなまえがよく言う『三ツ谷の過剰摂取で心臓が爆破する』そうなのでぐっと堪えた。俺ならいくらでもなまえのこと過剰摂取したいのだけど。でも、からかいすぎて嫌われたら困るので我慢する。

「これ、まだ持ってたんだ」

「三ツ谷が直してくれたもんね」

案内されてやってきた可愛いらしい色合いのなまえの部屋。机の上に飾られた見覚えのあるぬいぐるみをみつける。あの日、マイキーによって片腕の取れた宝物のくまのぬいぐるみ。涙ぐむなまえを見ていられなくって直してやったらパァっと花がほころぶように笑うから照れ臭くなって、つい目を逸らしたのを覚えている。思えばこの時からもう惹かれていたのかもしれない。

「あの頃の三ツ谷は王子様みたいに優しかった」

「おい、今は優しくないみたいな言い方だな」

「…優しいけど、優しくない」

ぷくっと拗ねたように頬を膨らませる。さっきの睨むような顔だったり、最近は少しずつ色んな表情をみせるなまえに本当にこいつ一挙手一投足可愛すぎやしないかと頭を悩ませる。部屋に入ってまだ5分と経ってないのに理性の限界が近づいてる気がする。キスぐらいしてもいいよな?付き合ってるんだし…なんて考えてしまう始末。

いや待て、場地が言ってたことを思い出せ。なまえは奥手だからゆっくり慎重に。付き合う時に子どもみたいに嫉妬して強引すぎたことを反省して大人の男を演じようと決めただろ。理性バロメーターを正常に戻そうと深呼吸をする。

「…でも好き」

チラッとこちらを伺うように言ったなまえに理性バロメーターがぶっ飛ぶ音がした。なまえの言う過剰摂取の意味がなんとなく分かった気がする。今になって照れてるのか、なまえの頬が赤みを帯びていき、何も言わず近づく俺に慌てだしたがもう遅い。

「え、三ツ谷!?」

「…」

「ちょ、ちょっと待ってッッ」

「無理、待てない」

このままキスしたらどんな顔するだろうか。手を繋いだ時みたいに息が止まるかもしれない。なまえのことだから気を失ってもおかしくない気がする。そうしたらまた口付けて目を覚ましてほしい。ふと昨日ルナとマナに読み聞かせた白雪姫の童話を思い出して柄にもなくロマンチックなことを考えていた。



return



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -