幼馴染たちに御用心!


「なまえ〜」

「ぐえ」

男のなかでは小柄なマイキーも、エマと変わらないくらいの身長のなまえと並ぶとやはり体格差がある。そんなマイキーに背後からのしかかられると重さに耐えかねたなまえはカエルが鳴くような声を出した。わざと体重をかけられ前のめりになると、ケラケラとマイキーの笑い声が響いた。

「可愛くねぇ声」

「マイキーに可愛こぶったって意味ないし。てか、重いから退いてよ」

「やだねー」

そのまま押しつぶされそうになりそうなところで体重をかけるのは辞める。しかし、マイキーは後ろからなまえの首に腕を回して離れないまま。「離れろー」と腕の中でジタバタと暴れても微動だにしない。痺れを切らしたのか、助けを求めるように近くにいたもう1人の幼馴染に声をかける。

「場地〜」

「あん?」

「マイキー剥がしてよ。重いんだけど」

「2人してくっつくな暑苦しい」

段差に腰掛けて普段より低い位置にいた場地の背にマイキーと同じようにもたれるようにくっつく。急に2人分の重さがのしかかる場地だが、なまえのような情けない声をあげることはない。しかし、振り返りながら鬱陶しそうに声を荒げる。

「場地に怒られてやんのー」

「誰のせいだと思ってんの」

「元はと言えばお前だろ、マイキー」

お互い文句を言いながらも、じゃれつく3人の姿はいつもの光景。東卍では当たり前のようによく見られるが、本来なまえでなければこうはならないだろう。場地に背後からくっつくなんてしようものなら、そのまま背負い投げを食らうだろうし、マイキーに舐めた口聞けるのもなまえくらいだ。他の奴が立ち入れないような距離感に三ツ谷は面白くなさそうに肩をすくめた。

「相変わらず幼馴染トリオ仲良いっスね」

「昔っからああだからなぁ、あいつら」

「兄妹みたいな感覚なんスかね」

「…そうじゃなきゃやってらんねぇよ」

三ツ谷と同様に一部始終を横で見ていた千冬が気遣うような視線を向ける。千冬相手に嫉妬したことがあると思うと少し申し訳なくなった三ツ谷は苦笑いを浮かべた。警戒してた千冬よりも困った恋敵たちのあの幼馴染2人。本人たちは全くといって自覚がないのが何よりも三ツ谷の頭を悩ませる。

今も子犬みたいにじゃれついてキャッキャッとはしゃぐ自分の彼女を含めた幼馴染トリオ。マイキーは今みたいなスキンシップは日常茶飯時だし、それどころか何度もデートの邪魔をされる。ちなみに今日も本当は2人で遊ぶ約束だった。

それに比べれば場地はまだマシだが、ある意味1番タチが悪かったりする。なまえに頼られるのは自分でありたいのに、何かあれば場地の元へ行く彼女。今だって場地に助けを求めたなまえと、それを当たり前のように寛容する場地。恋愛相談に乗ってもらった恩があるとは言え面白くはない。

「お前なんか顔変わった?」

「え、何急に」

「可愛くなった」

「はぁ?さっきは可愛くないって」

マイキーが不思議そうになまえの顔を覗き込む。恋すると綺麗になるなんて言うが、まさかマイキーにそんなことを言われるなんて思ってもみなかったなまえは怪訝そうに顔を歪める。

「そりゃあ、色気のねぇ声出すからじゃん」

「色気なくて悪かったね!」

怒ったようにマイキーに言い返すと急に後ろへと腕を引かれた。そのままポスンとその腕を引いた人物の胸の中に収まる。今日はやけに背後から来られるなと振り返ったなまえは唖然となって固まった。

「!?!?」

「三ツ谷なんだよ」

「それ以上はダメ。俺のだから」

なまえの代わりに喋り出したのはマイキーだった。ぐいぐいと顔の距離を詰め、今にもキス出来そうな距離感に流石の三ツ谷も止めに入ったらしい。にっこり笑って言うが、明らかに目が笑ってない。

「は?なまえは俺の幼馴染だけど?」

「俺は彼氏だけど?」

「俺に喧嘩売ってんの?買うけど」

「上等。マイキーでも譲るつもりはねぇよ」

余裕そうに笑う三ツ谷にマイキーも先程までの和やかな表情から一転し、不機嫌そうに睨みつける。一触即発の2人に千冬と喋っていた場地も止めに入ろうと腰を上げるより少し早くなまえが先にマイキーの両頬を引っ張った。

「おい、離せバカ」

「うるさいバカマイキー。何度も言うけど、私はマイキーのものじゃないの!急に所有欲出すのやめて」

「可愛くねぇやつ!お前なんて三ツ谷んとこ行っちまえ。俺はケンチンと遊ぶから後で来ても仲間に入れてやんねー」

「ハイハイ、また明日ね」

なまえの言うようにマイキーは特に深い意味がある訳ではない。なんとなく張り合いたくなっただけだろう。「いい加減にしなさい!」となまえに怒られたからか、不貞腐れたようにマイキーは立ち去る。しかも、去り際にあっかんべーと憎たらしい顔をして。子どもらしい表現になまえと三ツ谷は顔を合わして笑い合う。

「三ツ谷ごめんね、マイキーは多分遊んでたおもちゃ取られたくらいに思ってるだけだから」

幼馴染の子どもじみた行為を代わりに謝罪する。マイキーのことだから多分明日には、下手したら1時間もしたらすっかり忘れてそうな気もするけれど。付き合いの長い三ツ谷もそれを分かっているようだった。

「いいよ、別に。やっと2人きりになれたし」

「へ」

「こっち来て」

先程までいたはずの場地と千冬もどうやら帰ってしまったらしい。ニッと笑った三ツ谷に先程と違って正面から優しく引き寄せられて近づく距離。なまえはまたも固まりそうになりながらも、直前のところで三ツ谷の胸元を咄嗟に手で押さえて必死に距離を保つ。

「さっきはマイキーとこれくらいの距離だったろ?」

「や、それはマイキーはただの幼馴染だし…!」

「…お前がよくても俺が嫌なんだよ」

物心着く前からの幼馴染で兄弟のように育ったマイキーや場地と三ツ谷を同等に考えられる訳がない。だって三ツ谷は好きで好きでたまらない相手でマイキーは弟みたいな存在なんだから対応が変わってくるのは当たり前だとなまえは思う。そんななまえの気も知らず、余裕そうに笑っていた三ツ谷の顔がバツが悪そうに視線を逸らせた。

「マイキーでも場地でも、あんま他の男近づけんじゃねーよ」

「え、えっと…?」

「分かんねぇ?オレがずっとマイキーに嫉妬してたこと」

観念したようにボソッと言った三ツ谷の言葉の意味をなまえが理解するまで時間がかかったのは言うまでもない。三ツ谷が嫉妬?誰に?見るからに頭に疑問符を浮かべるなまえに耐えきれなくなったように三ツ谷は笑う。

「何?わざと嫉妬させてた?」

「違ッ!!わ、私は三ツ谷しか見えてないし、三ツ谷のことしか好きじゃないし、」

三ツ谷も幼馴染のマイキーや場地に嫉妬なんて馬鹿げてるし、なんなら独占欲強すぎて引かれやしないかと思う。しかし、心配するほど2人には恋愛対象としての意識がないことも、なまえが異性として意識してるのも自分だけだと自覚はある。でも面白くはない。

「他の人が入る隙間なんてないくらい三ツ谷のことでいっぱいいっぱいだし…!」

「ん、知ってる」

「な…!」

テンパりながらも自分の気持ちを伝えると、三ツ谷が悪戯っ子のように笑う顔に言わされたとようやく気づく。1枚も2枚も上手な三ツ谷のことだから、絶対に私の気持ちなんてバレバレなはずなのに!と恥ずかしがってももう遅い。

「でも怒ってるけどな。ずーっとくっついてるし、俺のこと放置だし」

「ご、ごめ」

「それに彼女には1番に頼られたいもんだろ?どんなに小さなことでも面倒くさいことでも。だから場地にばっかに頼んなバカ」

怒った顔や怒気の含んだ声をしてないとはいえ、珍しくなまえに対して悪態をつく三ツ谷。どうしていいか分からず、なまえは謝りながらも不安そうに眉を下げる。

「怒ってっけど、これで許してやる」

今度は距離を取る暇もなく、怒ってたなんて思えないほど優しい口付けを落とされる。何が起こったか分からなくて、なまえがパチパチと瞬きをする中で三ツ谷がにっこりと笑うのが見えた。思わず目をぎゅっとつぶると、今度は何度も啄むようなキスを繰り返される。「顔、真っ赤」と耳元で囁かれた時には、今度はなまえが怒ったように弱々しく三ツ谷の胸を叩いた。
 



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