まいきーと東京卍會

「殺すぞ」「死ねや」「オラァ!」と物騒な言葉が飛び交う。男たちの怒号、殴りかかる音、倒れ込んで舞い上がる土埃。まさしく喧嘩の真っ只中、そこに異様な光景が映る。

それはこの場にあまりにも似つかわしくない小さな少女。可愛らしいフード付きワンピースを着て殴り合う男達の中を元気よくかけ回っているのだ。急ブレーキをかけたように突然、伸びかけている特攻服の男の前にしゃがみ込む。

「ねぇねぇ、まいきー知らない?」

「マ、マイキーならあっちに」

「ありあとー!ごちそうさまー!」

「…は?」

その男を一撃でノックアウトさせた無敵のマイキーの所在を尋ねる。男の指差す先を見てにっこり笑う目元が誰かに似てる気がした。それもつい先程見たような。なぜ子どもがこんな喧嘩の中にいるのか、そして最後に少女の言った言葉の意味も分からないまま、男はマイキーに脳天に一発喰らったあの蹴りのせいで意識を手放した。

「あ、けんちんだ!」

「おー、なまえ。危ねぇぞ」

「ちゃんとよけれるよ!」

怖がる素振りも見せず、ちょこまかと小さな手足を動かして走る。途中で見つけたドラケンに嬉しそうに駆け寄ると、言葉通りドラケンの蹴りで吹っ飛ばされた男をひょいとよけた。流石、あのマイキーの妹なだけあって保育園児ながら運動神経がいい。

「まいきーは?」

「あっちで囲まれてんじゃね」

「わかったー」

ドラケンは殴りかかる男を長い手足であしらいながら余裕そうに話す。こんな喧嘩の中に子どもがいることは普通であればおかしいのだが、なまえがいつもマイキーの後をついて回るのをドラケンは知っている。だからこうして殴り合う男たちの中に平然といるなまえを見るのはもうすっかり慣れてしまっていた。

「ごちそうさまー」

「何だそれ」

「けんちんにやられて可哀想だからごちそうさま」

「それを言うならご愁傷様だろ」

「? ごちそうさま!」

ドラケンに背負い投げされ呻き声を上げた男に近づくと先程のように声をかけるなまえに首を傾げた。それがご愁傷様の意味だと気づく。しかし「ごちそうさま」で完全にインプットされたのかにっこり笑うなまえにダメだこれはとドラケンは諦めた。

「おーい、まいきー」

「なまえじゃん。どうしたー?」

「もうすぐご飯だからよびにきたー」

「すぐ終わっからそこら辺で待ってな」

「ほーい」

何人もの相手に囲まれているマイキーだが、ドラケン同様にまだまだ余裕があるようでなまえを見つけるとへらりと笑った。しかし、すぐ終わると言われた方は「ふざけんじゃねぇ!」と苛立つように全員で襲いかかる。それでも虫ケラを散らすようにバッタバッタと薙ぎ倒していくのを見るとこの喧嘩は本当にすぐ終わりそうだ。

「なまえー、帰んぞー」

「まいきー見て!泥団子!」

「お前それ好きだなぁ」

「でも一個しか作れんかったぁ…」

今回の喧嘩相手が片付いて端っこで遊んでたなまえに声をかける。視線を合わすようにしゃがみ込んだマイキーに自慢げに泥団子を見せた。しかしマイキーが言った通り、本当にすぐ終わらせたことでなまえは泥団子を一つしか作れなくて少し不服そうだ。多分、エマに夕飯だからマイキーを早く呼んできてと言われたことをすっかり忘れている。

「これバイクにカスタムしたらカッコいいよ。まいきーのバブにつけたげよか?」

「いらねー」

「じゃあ、けんちんのにつけてくる!」

「じゃあじゃねぇ!やめろバカ!!マイキーも止めろや」

「あはは!だっておもしれぇじゃん」

「けんちんもいらないなら、まいきー以外の今日いちばんケンカつよかった人にあげる」

「何の罰ゲームだよ…」

意気揚々と泥団子を持ってドラケンのゼファーに走って行きそうなのを、すんでのところでなまえのフードを捕まえて止める。自分は嫌がったくせにケラケラ笑うマイキーに「この自己中兄妹」とドラケンはボヤいた。

「おう、なまえ来てたのか」

「おー、かずとら!今日いちばんケンカつよかったの誰??」

「は?俺に決まってんだろ。毎日俺だわ」

「そうだな、一虎だな」

「俺も一虎だと思ってたわ」

「なるほど、かずとらか!」

「な、何だお前ら…?」

何も知らずやってきた一虎がなまえに声をかけた。当然俺と答えるとマイキーとドラケンまでが「お前が1番だ!」と賛同する。いつもなら「俺だ」「いや俺だろ」としょうもない争いになるのに予想外の反応。どういう事かと一虎は怪訝そうに眉を寄せる。

「よし、行ってこいなまえ!」

「まかせろ」

「あん?………ギャァァアア!?俺のケッチに何してんだなまえ〜〜ッッ!!」

「カスタム」

「泥を乗っけんのはカスタムじゃねぇ!!」

「泥じゃない〜!なまえ特製ピカピカ泥団子〜!」

マイキーの合図で元気よくかけて行ったなまえが一虎のケッチを見つける。そしてよじよじと器用に登ると泥団子を乗せた、いやなまえ曰くカスタムを行う。悲鳴をあげながら近づく一虎に得意げに答えた。保育園の中でも1番上手に作れるとなまえの自慢なのだ。

「カッコいいじゃん!なぁケンチン」

「おー、似合ってんぞ!羨ましいわ〜」

「お前らグルか!ふざけんな!!」

「いや、マジマジ…」

「やべ、ダメだ腹痛ぇ…」

「…おい、テメェらそこ動くなよ」

「あ〜!かずとらがなまえの泥団子投げたぁ!」

絶対に思っていないくせに羨ましがるマイキーとドラケンだったが、とうとう堪えきれないように腹を抱えて笑い出す。ワナワナと怒りで震える一虎によってなまえ自慢の泥団子は2人に向かってに投げ付けるが、先程のなまえと同じようにひょいと避けられてぐしゃりと呆気なく地面に潰れた。

怒り狂う一虎を見ながら笑い声をあげる総長と副総長の元に何事かとわらわらと東京卍會の面々が集まり出していた。

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