Invincible Mikey







誰しも忘れたい記憶、消したい思い出の一つや二つあるだろう。かくゆう私も思い出したくもないことが一つ。それは私の初恋の相手のこと。

「好きです」

「えっと、」

昼休み、呼び出された体育館裏に行けば開口一番そう告げられた。いや、告白スポットと名高いこの場所に呼ばれた時点で薄々分かっていたけれど。真っ直ぐに見つめる目が真剣さを物語っていて私まで緊張してくる。

「みょうじさんのこと優しくてええ子やなって思ってて。よかったら俺と付き合ってくれませんか?」

今年4月に転校して来たこともあり、なんだかんだ世話を焼いてるうちに彼は私に好意を持っていてくれたらしい。

見た目は好みではないけれど、悪くはないと思う。背も高いし、時折出てくる方言が可愛い。今はまだ好きではないけれど好きになる気がしてきた。友達はみんな彼氏持ちだし、私だってそういうことが気になるお年頃だ。こうゆう恋愛の始まり方だってあっていいはず。

「残念」

「え」

「こいつ、俺のこと好きだから諦めな」

返事をしようとした私の代わりにどこから現れたのか佐野がへらっと笑って答える。給食だけ食べに来たならいいのに、ついでに人の告白を邪魔するなんて本当に何考えてるか分からない。しかもこれが一度や二度のことではない。

「ねぇ、どういうつもり」

「だって事実だろ」

「事実だけど過去の事実でしょ!!」

私の告白の返事も聞かず、彼はそそくさと帰ってしまった。この光景は一体何度目だろう。そりゃ無敵のマイキーを好きな女なんて手を出したくない気持ちは分かる。でも、なんで告白されたのに私が振られた気分になってんの。しかも今現在好きなわけではなく、昔ちょっと好きでたまたまそれが初恋だっただけだ。

「何が楽しくて人の告白邪魔すんの」

「なまえが怒ってんの面白いよな」

「…なんで好きになったのか私が私に聞きたい。あの頃すでに悪魔の片鱗が見えてたのに」

とびきりの笑顔でそう言った佐野に、深い深いため息をつく。なんでこんな奴が私の初恋なんだ。しかもうっかりクラスのお喋り女子にバレて本人の耳に入るどころか、こうして中学に上がっても今だにからかってくるなんて。

でも仕方ない。小学生時代は足が速いとモテるんだもん。スポーツできるし、喧嘩は強いし、その癖女子には手を出さない。喧嘩っ早いけど弱い者いじめはしない、みんなに好かれるタイプのガキ大将だった。そんなの好きになっちゃうじゃん。当時はこんな悪魔みたいな男になると思ってなかった。若気の至りなんて言葉では片付けられない。本当に消したい記憶だ。

「龍宮寺くんは?」

「知らね。教室じゃね」

「…そう」

あたりを見渡すもお守りの龍宮寺は見当たらない。私は一応告白を断ったことになった手前、気まずいから昼休み終わるギリギリまでここに1人で雲隠れしときたいのだが、佐野は帰る気はないらしい。段差の砂を軽く払って座り込んだ私の隣にすとんと座り込む。

「初恋は忘れられないって言うじゃん。それって本当?」

「私の場合は忘れられないじゃなくて、忘れさせてくれないんだけどね。どっかの誰かのせいでね」

「ふーん」

自分から聞いといて、興味なさげに相槌を打たれる。嫌味で言ったつもりが全く響いていないようだった。佐野の興味はポケットから出したどら焼きに移ったらしい。機嫌よさそうにかぶりつく横顔を見ながら、私のこともとっとと飽きて放っておいてくれればいいのにと思う。

「ねぇ、いつまでこの遊び続くの」

佐野にとっては遊びの一部でも私にとってはそうじゃない。私が恋愛出来ないのは、佐野のせいと言っても過言ではないのだ。毎回、佐野が邪魔するおかげで私だけ今だに彼氏が作れないことを知っているのだろうか。頬っぺたに食べかすをつけながら呑気に食べてるところを見ると絶対に分かってはいないし、そもそも他人の迷惑を考える奴ではない。

「なまえが俺のこと好きじゃなくなるまで?それか、」

「とっくに好きじゃないんだけど!!」

佐野の返答に食い気味で答える。小学5年の時にお喋りなアカリちゃんによって、本人にバレて周りに冷やかされまくって嫌になって終わった。アカリちゃんだって好きだったくせに。当時大流行してたプロフィール張の好きな人欄にマイキーくんって書いてたのに。ちなみに、いつから好きだったかは黙秘するし、私は恥ずかしくて書けなかったタイプだ。

「嘘つけ」

「ちょ、何!?」

私の答えに大きな黒目をキョトンとさせ一瞬呆けるも、不敵に笑うとぐいっと顔の距離を詰めてくる。いつのまにどら焼きを食べ終わったのか、前から覆い被さる佐野に逃げようと咄嗟に後ろに引くが片手で抱き止めらた。これはもう逃げられないと本能が悟る。

「俺のこと本当に好きじゃない?カッコいいとか思ってない?」

「す、好きじゃない…ことも、なくはない」

抱き合うような体勢に、目の前にある佐野の顔に頭がぐらぐらする。空いてる手が頬に触れると白状するしかなくなる。そうだよ、佐野の言った通り初恋を忘れられない。佐野が邪魔しに来なくたってきっと彼氏なんか作れるわけがない。

「へぇ、」

「あんたのせいで初恋が拗れただけ!」

「小二の時からずっとかぁ、俺のことめっちゃ好きじゃん

今度は至極楽しそうに相槌を打つと満足した様子でようやく解放される。ニマニマと笑う佐野に食ってかかるが、全くダメージを受けてないどころかさらにニンマリされて、私はただただ顔を赤く染める。いつから好きだったかもバレてるなんて。

「めっちゃじゃない!ちょっとまだ好きなだけ!」

「ほぉ。なまえはやっぱまだ俺が忘れられないのかー」

「か、からかうだけなら放っといてよ」

「さっきの続き。お前が俺のこと好きじゃなくなるか、」

佐野には敵わない。反論すればするほど、こちらがカウンターをくらう。きっと喧嘩もそうなんだろう。これは喧嘩ではないので、せめてもの反抗にふいっと顔をそらす。もう勘弁してほしいと思っているのに佐野は逃してくれないようで、いとも簡単に佐野の手によって顔を戻される。

「それか俺の彼女になるか。…さぁ、どうする?」

顎を掴まれたまま、天使の微笑みで悪魔の囁きをされる。黒目がちの目を爛々と輝かせて、いっそう笑うその顔は私の答えを分かりきってるようだった。




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