High school No. 1 setter







「顔はいいけど性格がねぇ…」

みんな口を揃えてそう言う。でもそう言いながら、目で追ってた。いつも周りには人がいてポンコツ扱いする割に結局みんな侑には甘かった。なんだかんだ言っても好きになってしまえばもう遅いのだと思う。そんな些細なことと目を瞑ってしまう。私のように。

イケメンは得だ。私だってバイト先にイケメンが来たらついオマケしてしまうもの。ついつい愛想良くしちゃうもの。顔が良いだけでも得なのに、スポーツ万能と高身長なんてそりゃモテるに決まってる。侑に至っては中身はアレだが、誰とでも気さくに話せるから余計に拍車がかかってモテる。ポンコツだと気づいた時にはもう侑沼の中だ。

だから、クラスの仲の良い女子で十分だと思ってた。諦めてたわけじゃないけれど、付き合えるなんて思ってもなかったし。いつか大人になった時お酒の勢いで「昔好きだったんだよね」くらい言えたらいい方だと思ってた。けれど私は前世でだいぶ徳を積んでたらしい。

「なぁ」

「んー」

「…好きやねんけど」

昔やってた某バラエティー番組のように全校生徒の前で屋上から告白してきそうな侑に放課後の教室でボソッとそう言われた時は耳を疑った。思わず聞き返してしまったくらいだ。だってあまりに侑らしくない告白だったから。

「は?」

「なんやねん。可愛くない反応やな」

「いや、目立ちたがり屋やのにむっちゃ普通に告るやんと思って」

人はあまりに驚くと笑ってしまうと初めて知った。よくよく考えれば告白して笑われるなんてかなり失礼なことである。案の定、侑に「お前が教室で告白されたい言うたやんけ」と逆ギレされた。

「で、返事は」

「返事はいつでもいいから(キラキラスマイル)までが私の理想の告白なんだけど」

「俺の告白の有効期限は今日までや。俺がここまで譲歩してんから、はよ返事せぇ」

告白より恫喝じゃないか。でも私には頷く以外の選択肢はない。こんな告白でまかり通るなんてやっぱりイケメンは得だ。いや、私がつくづく侑に甘いだけかもしれない。

好きだからしょうがない。今の私は世界で1番幸せだと思えた。後から聞いた話だが、侑から告白するのは初めてだったらしい。本当に涙が出るくらい嬉しかった。だから学年が上がってクラスが分かれても、部活ばかりであまり遊ばなくても、たまにしか来ないメールも、それでも私にとっては幸せだった。

でも終わりはあっけなく訪れた。

何が原因だったか、些細な言い合いから喧嘩になった。気性の荒い侑とは割とよくあること。いつもなら私が謝ってそれで終わり。その日も私が謝って一回引いて、侑もそこで終わればよかったのに。

「ごめん、言いすぎた」

「謝るんやったら端から言うなや」

カチンときた。昨日までの私ならイラっとしながらも受け流せたのかもしれない。でも今日はそれが出来なかった。

雨で低気圧から頭痛がするし、生理前だし、友達の友達から「すぐ別れると思ってたのに意外と長続きしてるよね」って褒めてるのか嫌味なのか分からないこと言われるし、教師には雑用押し付けられるし、さらに侑とは喧嘩になった。仲直りしようと謝ったのに侑はその気はないらしい。

「あっそう」

「…なんやねん」

ムカついたというより呆れた。いつもなら惚れたもん負けで結局は私が折れる。侑もそれを分かってたと思う。また私が折れなきゃいけない?また我慢しなきゃいけない?私が侑のファンの子達に陰でなんて言われてるか知ってる?ふつふつと怒りや悲しみが湧き上がると、代わりに好きという気持ちが萎んでいく気がした。

「もういいや。もう疲れた」

「は?」

「もう侑のこと好きでいるのやめる。しんどくなっちゃった。もう彼女やめる。さよなら」

言いたいことは山ほどあったけど、侑に言っても仕方ないことやどうせ言っても無駄な気がして端的に別れを告げた。でもまだ淡い期待はあったんだと思う。私は特別だって。でも振り返った先には誰もいなかった。侑が追いかけてくることはなかった。

翌日、別れたと言ったら反応は様々だった。心配してくれる子、励ましてくれる子、内心喜んでる子、さっそく侑にアピールしに行く子。まあ元々付き合ってた時からファンからの早く別れろって圧は凄かったし、そのうちすぐに新しい彼女ができるのは明白だった。

「なまえ!」

「え、何」

「お前、なんで俺のとこ来ぉへんねん」

「なんでって別れたからでしょ」

放課後、帰ろうとカバンを持って立ち上がると教室に侑の声が響いて思わず肩が跳ね上がる。たしかに付き合ってた時は一日一回は侑のクラスに行ってたけど、今は行く理由がない。別れた後気まずくなるとか言うけど、友達歴が長かったせいか思ったよりスラスラと話せた。

「俺は認めてへん」

「…なら昨日追いかけてでもそう言いなよ」

「それは…!」

ムスッとした表情にこういう時でも強気だなぁとか怒った顔もカッコいいなぁとかぼんやりと思う。だけど同時に息を吸うようにため息を吐く。カッコいいから、好きだからと許してしまう私は昨日までだったんだよ。女は切り替えが早いんだよ。

なんて言い返されるかと身構えてると言葉を詰まらせる侑に首を傾げる。私が別れるなんて言うと思ってなくて、立ちすくんでたとでも言うわけ?あの侑が?まさか。昨日の夜、もう終わったと自分に叱咤激励したばかりなのに。すでに目の前の侑に自分に都合の良すぎる妄想に、ないないと首を振る。

「早く部活行かな、北さんに怒られんで。じゃあね」

「昨日といい今日といい、じゃあねさよならで済まさへんぞ」

これ以上期待をさせないでほしい。どうせ侑のことだから自分が振られたのが気に食わないんだろう。侑のポンコツ具合を舐めてはいけない。そういう男なのだ。

唯一苦手とする人物の名前を出して逃げるように侑を横切ろうとするとやんわりと腕を掴まれる。ムカつく。言葉も態度も横暴なのに触れる時だけはいつも優しい。触れた先から昨日萎んで消えていった好きがまた呼び起こしてしまいそうで怖くなる。

「…じゃあどうやって別れたら良いわけ?」

別れるんだからせめて嫌いになりたい。この先また侑に片想いなんてもうごめんだ。早く手を離してほしい。好きが蘇ってしまう前に。それに教室だし、周りからの目が痛いし、明日になったら「元カノがしつこく復縁迫ってた」と噂されるのは私の方だ。そう思ったら途端に腹が立ってくる。

睨みつけるように侑を見上げると急に腕を引かれて、目の前に侑の整った顔がある。噛みつかれるようなキスに、初めて侑のキスが痛いと思った。同時にいつも手加減されてたんだと思い知る。あれ、待って。ここ教室やし窓も開いてるから廊下からも丸見えやんと焦って身じろぐも、用意周到に逃げられないように頭と腰を固定される。

俺から逃げれると思うなよ

「!?」

「別れるやなくて、ええからはよ好きって言えや」

ようやく離れた侑の目は獲物を見つけた獣のようにギラギラしてる。やっぱりこんな横暴な告白がまかり通るのはやっぱり侑だけだと思う。けれど素直に好きと言うのは、昨日の私に申し訳なくて答えの代わりにゆるゆると侑の背中に手を伸ばす。

抱きつき返した私にビクッと身体が揺れたのは一瞬ですぐに力が抜けた。しばらくすると侑の頭が私の肩にもたれかかる。「俺が悪かった」とボソッと呟いた。侑からの初めての謝罪に笑ってしまうが流石に今日は逆ギレされず、黙ったままだった。

「お詫びになまえの言うこと、なんでも聞いたる」

「じゃあ、たまには一緒に帰りたい。部活終わるの待ってるし」

「そんくらい、いつでもやったるし」

侑と付き合えるだけで幸せだったのは本当だけど、寂しかったしもっと一緒にいたいと思ってた。侑の気まぐれがいつまで続くかと思ってたけど、卒業するまで家まで送り届けてくれるなんて私は想像もしていなかった。

「なんや仲直りしとるやん。ツム、別れたないって泣いて縋ったん?」

「そ、そんなことしてへんわ!!」

「そっちの方が可愛げあるよね」

「はぁ?お前が男らしい人が好き言うたやんけ」

横暴で我儘でポンコツで分かりにくいけれど、侑にとってやっぱり私は特別らしい。また好きが萎んでしまうこともあるけれど、きっとそれ以上の好きを絶え間なく与えられるのだろう。




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