愛は表裏一体


人格ポンコツ。人でなし。片割れやチームメイトによお言われるけど正直そんなこと気にしたこともない。自分にとってバレーより大切なもんなんてないねん。友人だろうが恋人だろうがチームメイトや家族であろうが俺のバレーの邪魔になるんやったら必要ない。それの何が悪いん?そう言い切れば治はそれはもうゴミを見るような蔑んだ顔をしとった。

けど俺からしたらあいつやって大概や。

食い意地凄いし、すぐ手も足もでる奴やけど、他人からはおっとりしとるとか優しいとか言われることが多い。まぁ、確かに俺よりも人に気遣えたり(俺を除く)、約束守ったり、朝ちゃんと起きれたり、人としてちゃんとしとると思う。ほんのちょびっとやけどな。でも、ある人物に対してやと話は変わってくる。

「お前、またサムに泣かされたん」

人に優しく生きるなんて言うといて、一番優しくしてやらなあかん存在である恋人のなまえがボロボロと涙を溢しているんを見るのはこれが初めてではない。泣いてる原因なんて聞くまでもない、今回もどうせ治が悪いんやろ。双子やからか治の考えそうなことが手に取るようにわかる。かといって一ミリも共感なんてできへんけど。

中学あたりから付き合うてる2人は普段は喧嘩なんてせえへんし、ほんまにお互いの事を好きで好きでたまらんのやと見てるこっちが恥ずかしくなるくらいのお似合いで、稲荷崎の名物カップルや。やけど普通のカップルとはちょっとちゃう。純粋に愛情を抱いてるなまえと違って治がなまえにだけは歪んで捻れた愛情をむけとるせいや。

その異常な愛情のせいで今日みたくなまえはボロッカスに泣かされる。それも治によって意図的に。それを毎回こうして見るんは正直、面白ない。俺にとってもなまえはちっこい頃から知っとる幼馴染やし、そこらのミーハーな女と違って穏やかで優しい奴や。治の彼女ということを抜きにしても気に入っとる。そんな奴を容赦なく傷つける治を見て見ぬふりは出来んくて前に一度問い詰めたことがある。

「なまえ泣かすんやめたれや」

「ツムに関係ないやん」

「お前の女関連でなまえが泣かされとるの見るとこっちも気分悪いねん」

「俺やって可哀想やと思ってんで?やから半年に一回ぐらいにしてるやん」

「可哀想と思っとったら泣かさんやろ」

「やってしゃあないやん。泣いてる顔が可愛えんやもん」

「はぁ?それ本気で言っとる?」

「俺、あいつの泣き顔がいっちゃんそそんねん」

そう言って幸せそうに笑う治に何を言っても無駄やと諦めた。共感なんてせんけどその表情だけでわかってしまう。俺にとってのバレーが治にとってのなまえなんやと。泣いとる顔が可愛いからとわざと泣かす為に治は他の女にちょっかいをかけるなんて普通の奴じゃ考えられん。

「侑、ごめん。もう帰るから」

今朝学校で会うた時はバレーの大会がようやく終わって久しぶりにデートすると嬉しそうに話とったのに治と共用の部屋の扉を開ければなまえが1人ポツンと膝を抱えていて、そういえば前に泣いてた時からちょうど半年経ったことに気づく。

「ええよ、サムやろ。泣いとけ泣いとけ」

「ううん、私が悪いねん。でもありがとね、」

どう考えたって治が悪いのに、泣かされたはなまえいつも自分が悪いと謝るこいつはほんまに優しいやつやと思う。やからあんなやつに漬け込まれたんやけど。

「で、サムどこ行ってん」

「クラスの女の子に呼び出されて…」

「はぁ!?それでお前放っぽって行きよったんか」

「ええんよ、用事あるなら仕方ないし。こんなことでメソメソして私、恥ずかしいわ」

治が呼び出されたからと普通に行く訳がない。そう言えばここ最近治が特定の女とよく喋っとったな。あいつのことやからなまえを置いて行く前にあの子の顔可愛いとかええ子やなぁと褒めてみたり、わざと仲良くしてるの見せつけてみたり、なんやったら大会前で部活が忙しくて会えへんかったことを利用してなまえの不安をさらに煽るだけ煽ってから行ったに違いない。なまえを泣かす為やったらあいつは何だってやる。

「しゃあないからサム帰って来るまで相手したるわ」

「ううん、遅なるかもしれんから帰っとき言われてん」

「お前、たまにはサムに逆らったらええやん」

わざと泣かされてることも知らずにやられっぱなしのなまえを見てるとなんや代わりに俺が腹立ってくる。

「治が他の女と遊んでるやったら、なまえやり返したり」

「治は別に遊んでるわけじゃ…」

「今こうしてなまえ置いて女んとこ行ってるんやろ」

「そうやけど、それは仕方ないというか、治は優しいしモテるからこれくらい我慢せな」

「別に浮気しろ言うてる訳ちゃうし、治ばっかしやなくて他の男とちょっと遊んで息抜きしたらええやん。なまえやってモテるんやし引くて数多やで?」

「何言うてんの。私ぜんぜんモテへんよ?治以外に告白なんかされたことないし、そもそも治と侑以外で仲良い男の子もおらんわ」

それは治が徹底的になまえに気がある奴潰して回っとるからなぁ。

「ふーん、なら俺と火遊びする?そしたらあいつも少しは目ぇ覚めるかもしれんし」

「火遊び?」

「ん〜?一夜限りの大人の関係に決まってるやん」

「ふふ、今日も侑の人格ポンコツは通常営業やねぇ」

治にたまにはお灸を据えてやってもええと思うねん。冗談半分、本気半分で言ってみたけどなまえは完全に冗談として受け取ったらしい。ようやく浮かなかった表情がようやく少し明るくなる。

「なんでやねん!こんなイケメンの侑君のお誘いやで?ちゅーぐらいしとかな損やで?」

「えー、いらんわ!」

ふざけて目を閉じてキス顔を披露すればいつもみたいに楽しそうに笑いだすなまえに嬉しい反面、この際ほんまに無理矢理唇くらいは奪ってしまおうかとも思う。顔も可愛いし性格もいいなまえとキスするんは俺にとっても好都合やし。

でもそれこそ治の思うツボや。俺と無理矢理とは言えキスなんかしたら心優しいなまえは一生その罪悪感を抱えるんだろう。治に優しくされるたび、治とキスするたび、その罪悪感にかられて治の思う通りにぽろぽろと涙を溢すのだろう。

せやから、こうしてちょっとばかし笑かしてやることしかできん。俺の暴走を治が止められへんように俺も治のほんまに好きなもんを止めれる訳がない。それが人の道に外れてようとも。出来ることはせいぜい尻拭いくらいや。

「ツム、帰っとったん?なんや、なまえもまだおるやん」

「ごめん、もう帰るね」

「俺が話しとってんから別にええやん」

「ふーん。なまえ、送ってくから行くで」

「あ、うん。ありがとう。侑もありがとね、また明日」

「またなー」

なまえの赤くなった目を見ると獲物を狩る目をした治に気づいたけど、これはもう手遅れやと思った。あの目のサムを止める術はないことを一番俺が知っとる。きっとまたなまえは今から泣かされるんやろうなぁ。

「普段は優しくって他人を優先するようななまえがさ、嫉妬に狂って泣くのがたまらんわ」

きっちり夕食前に帰ってきた治が満ち足りた顔言うもんやから、なまえはやばい奴に引っかかってしもたなぁと心底同情した。うちの身内がすまんなと心の中で合掌して、なまえだけには出来るだけ優しくしてやろうと改めて決心した。









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