「治くん、トトロごっこしよー」

「ええけど、それ何の遊びなん?」

「侑くんがやってくれたやつ〜」

ソファで横になってゴロゴロと転がっていると治の頭上に風呂に入ってパジャマ姿に変わったなまえがひょっこりと顔を出す。聞き慣れない遊びに思わず首を傾げると片割れの名前が出てきた。また余計な遊びを教えたようだ。

「おふろでね、侑くんがトトロのマネしたの」

「ああ、通りでツムが叫んでたんやな。とうとう頭おかしなったんかと思たわ」

「でね、なまえがメイちゃんするから治くんがトトロね」

「はいはい」

1人でお風呂に入れると言うなまえに侑が「一緒に入る!」とどっちが子どもが分からんような我儘を言うて一緒に行ったのが少し前のこと。暫くすると風呂場からやけに騒がしい声がリビングまで聞こえてきた。まだ19時をまわった所だが、近所迷惑と言われても仕方ないような大きな声がしていたのは侑がトトロの叫んでるシーンを再現してたらしい。

金曜ロードショーで観た以降すっかりトトロに夢中ななまえはそれが面白かったようで風呂場からもキャッキャッと甲高い笑い声は聞こえてきていた。その遊びを大変お気に召したようでキラキラの瞳で今度は治を遊びに誘う。

「よいしょ」

「え、もう始まってるん」

「うん。もう治くんはトトロやで」

仰向けに寝ていた治のお腹の上にがなまえよじ登ると、つんつんと治の頬をつつく。どうやら既にトトロごっこは始まってるらしく、ワクワクと嬉しそうな顔で治を見つめている。

「グルルル」

「ふふ、あなたはだーれ?まっくろくろすけ?」

「ンン。…と、と、ろぉおおお!!」

「あはは!トトロ、あなたトトロって言うのね!」

こんなんやったっけ?とトトロのシーンを思い出しながら再現する。数回咳払いをしてよく通る声にするなど恥ずかしがることなく全力でやり切るのが関西人としての誇りだ。口を大きくあけてトトロになりきるとなまえはケタケタと笑い出した。正直、何が面白いか治は全く分からないが、楽しそうに笑ってるなまえを見るのは面白いしなによりもその笑顔に嬉しくなる。

少しして風呂から上がった侑が持ってきたドライヤーで、トトロの叫びのように勢いよく風をあてると治にしがみつきながらさらに笑い転げていた。

「侑くん、もっかいやってー」

「よっしゃ、任せとき!」

「キャー」

呆れることが多い片割れだが、なまえと遊ぶ才能や治以上に全力で子どもの遊びに参加できるのは凄いと思う。単に同レベルなだけかもしれないが。暫くするとトトロごっこからかくれんぼに変わり、隣のおばあちゃんがメイを探す時のように「なまえちゃぁぁーん!」と真似する侑に「やかましい!」と母親が注意するまでその遊びは続いた。

「…」

ついさっきまでキラキラと目を輝かせながら治と話してたなまえがうつらうつらとしだす。いつもならまだ寝る時間ではないのだが、今日ははしゃぎすぎたようで今にも眠そうに頭がゆらゆらと揺れている。本当にトトロの上で寝てしまうメイのようだった。

「なまえ、眠いん?」

「んー」

「ほれ、抱っこしたるからおいで」

「んん」

目を擦りながら眠たげに返事をするなまえは完全に電池切れ一歩手前だ。治がベッドに運んでやろうとするが、力なく首を振ってそれを拒否する。珍しい。

「寝んねするやろ?」

「まだ治くんと、おしゃべり、するもん」

「ふふ、可愛ええなぁ」

辿々しくそう言いながらも、眠気の限界に近かったようで治の胸にぽすっと倒れ込むなまえの頭を慈しむように優しく撫でる。

「じゃあ、お布団入ってお喋りしよか」

「うん」

「歯磨きしたか?」

「まだぁ」

「よし歯磨きしに行ってからやな」

抱き上げるといつもなら首にぎゅっと巻きつく腕が治の胸あたりの服を弱々しくキュッと掴む。落っこちないように気をつけながらゆっくりと洗面所に向かった。

「ほい、口開け」

「あー」

普段なら自分で歯磨きする為に洗面台の前に置かれたなまえ用の踏み台にちょこんと座り込んでかぱっと口を開けた。これまたなまえ専用のイチゴの歯磨き粉をつけてゴシゴシと小さな歯を磨いてやる。少し前に歯が抜けたと大騒ぎした前歯はもう小さな歯が顔を出していた。

「はい、仕上げ終わり。グチュグチュペーしぃ」

「ぺー」

歯磨きを終えたなまえの口元をタオルで拭いてやる。いつもなら「自分でする!」と何でも自分でやりたがるなまえの一生懸命な姿も愛おしいが、甘やかしたくてしょうがない治はこの状況に大満足だった。

眠気からか赤ちゃん返りのようにいつもの何倍も甘えるので治は口元が緩んで仕方がない。うとうとしながらも歯磨きをする治のズボンを握りしめながら待っているなまえに悶えながらシャカシャカと歯ブラシを急いで動かした。

「眠たいなぁ。お話はまた明日やな」

「う、ん」

「なまえが今日もいい夢見れますように」

「おさむくんも、」

ベッドに横になると当然のように擦り寄るなまえを優しく抱き止める。いつものように前髪を撫でながらそっと優しくオデコにキスを落とすとお返しと言わんばかりに治のほっぺにちゅーをしようとする。

しかしあまりの眠たさに思ったように身体が動かず、頬には届かずに治の顎あたりにチュッと口付けると力尽きたように枕にぽすんと倒れ込んでいった。意識を手放す直前までも可愛いらしいなまえの行動に胸がきゅんと高鳴る。

「よしよし」

「ん」

「ねんねねんね」

赤ん坊をあやすように背中をトントンとしたり宝物を扱うように優しく丁寧に頭撫でる。ゆったりした柔らかな口調で声をかけ続けると心地よいそのリズムにすぐに深い眠りに落ちたようだ。規則正しい寝息が聞こえ出す。

「おやすみ、幸せな夢見てますように」

スヤスヤと腕の中で眠るなまえの柔らかな栗毛を手繰り寄せてそっと口付けた。

おやすみ



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