布団に潜った愛しい彼女は起きる気配も動く気配すらもない。「なまえって朝苦手だよ」と今のチームメイトの角名に聞いていた通り、なまえは朝が弱いらしい。
本人も朝が弱いのを自覚してるのか古森といる時はなるべく起きるように頑張っていた。しかし今日は古森が声をかけてもすぴーと気持ちよさそうに眠ったまま。最近は学校と勉強、そしてバイトとかなり忙しい日々を送っていた中で時間を空けて会いに来てくれたので、きっと疲れてるのもあるのだろう。
古森もそれを分かっていたのだが、それに追い討ちをかけるようについ昨夜は盛り上がってしまった。いや、でもあれはなまえが可愛いのが悪い。久しぶりに会えたのもあったし、甘えてくるなまえに手を出さないわけがない。
ああでも最後の一回はやりすぎたな。なまえへろへろになってたし。プロのスポーツ選手の体力に付き合わせたのは申し訳なかったかもしれない。けれど可愛かったなぁ…と思い出すだけで口元が緩む。
こんなにやけきった顔を従兄弟に見られたら「キモ」と一蹴されそうだ。けれどここには聖臣もいないし、カッコつけたい相手のなまえもすやすや寝ている。だらしのない顔を見られる心配もないので、隠す必要はないその緩みきった表情はさらけ出したままでいた。
とはいえ、やはり無理をさせた罪悪感からなまえを起こさないよう少し前に起きて朝ごはんの用意までした。しかしいくら待てども起きてこないなまえに流石にそろそろ起きてもらわなければ、せっかくの朝ごはんも冷めてしまう。
「おはよ、起きて」
「朝ごはんできてるよー?」
「もー、まだ寝てんのー?」
声をかけ続けてもあまりにも反応がない為、よいせとまたベットに潜り込む。すかぴーと寝息を立ててるなまえの頬をつんつんと突いてみたり、むにむにと引っ張る。
「ねえ、起きて。なまえが起きないならもっと悪戯しちゃうよー?」
悪戯心から栗色の柔らかい髪の毛をかき分けておでこにチュッと口付ける。わざとリップ音を鳴らすも少し眉を顰めるだけ。調子に乗ってTシャツの中に手を入れても、なまえはくすぐったそうに身を捩って反対の壁側を向いてしまう。
「ええ〜、これでも起きないのか」
こうしてイチャイチャして起きてくれたらいいのにと思ったが、未だ熟睡中のなまえに困ったなと苦笑する。チラッと時計を見ると家を出なければいけない時間まで約45分。仕事に行く用意は既にできてるので、後は朝ごはんを食べて歯磨きをしたらすぐに出発できる。普段であれば10分もかからないが、なまえがいるならゆっくり話して出来るだけ長くなまえと過ごしたい。となるとやはり何が何でも起きてもらわなければ困るのだ。
「起きないとおはようのちゅーしちゃうぞー。…あれ?起きてないからのおはようじゃなくて寝込みのちゅーになるのか」
壁側を向いたなまえの顔を覗き込む為に覆い被さると古森の言うように完全に寝込みを襲う姿にしか見えない。ここで自己申告するならば、寝入った後にキスしたことは何回もある。一応、全て付き合ってからなので許して欲しい。本人は全く気づいてないし、バレたら多分恥ずかしがるだろうから絶対に言わないけど。
ふにふにとなまえの柔らかい唇を指で押していると、身の危険を感じたのかようやくうっすらと目を開けた。こうなるとバレるので寝込みのキスが出来ない。起きて欲しかったとはいえ、さっさとやっとけば良かったなと古森は少し後悔した。
「おはよ」
「んー」
「ねぇ、おはようは?おはよーって。元也君おはよーってちゃんと言って?」
「もとやくんおはよ」
古森のあやすような優しい口調を聞きながら、寝起きでまだ働かない頭を一生懸命動かして、子どものように舌足らずに挨拶をするなまえにはぁ可愛いと幸せなため息がでる。押し倒しているような古森の体勢に全く気付いてないところをみると、まだまだ寝ぼけてるらしい。
「朝ごはん作ったから食べよ」
「…うん」
「はいはい、布団に戻らない」
「まだねむたい」
「だーめ。はい、起きるよ」
「だってもとやくんが…」
返事をしたのにまた布団に潜り込もうとするなまえを布団から引き離して、細っこいその腕をつかんで身体を起き上がらせる。それに抗議するようにムニャムニャと何か言っていたが、寝ぼけたその言葉はよく聞き取れなかった。
「おはようのちゅーする?」
「ん」
「ふは、まだ寝ぼけてんね」
「もうおきてるもん」
「そっか、じゃあ朝ごはん食べようね」
いつもなら恥ずかしがって自分からはしないのにスルッと古森の首に腕を伸ばしてキスをするなまえはまだ半分夢の中のようだ。言ってみるもんだなと古森はニンマリと笑う。目を擦りながら何とか覚醒しようとするなまえの頭をよしよしと撫でた。
「眠たいなら抱っこして連れてってあげようか?」
「…!自分で歩ける」
「ありゃ、起きちゃったね。残念、久しぶりに抱っこしたかったのに」
「そうやって元也君はすぐ子ども扱いする…」
「子ども扱いじゃなくてなまえが可愛いから甘やかしてんの」
古森が両手を広げるが、徐々に覚醒してきたなまえはカァッと頬を染めた。外ではあまり感じないのだが、2人きりになると全力で甘やかしてくる古森になまえはたじたじだった。今もこうして「ちゃんと起きれたね」と髪にキスをされて頬だけじゃなく耳まで赤く染まる。
「ほら朝ごはん食べに行こ」
「え、元也君が作ってくれたん?」
「何回もそう言ってるのに起きなかったのは誰ですかね〜」
「うっ…。ごめんなさい」
ようやくベッドから出てきたなまえをからかいながら手を引いてリビングに連れて行く。前に「なまえはキャパ超えたらほんまに起きてこおへんねん。可愛えやろ」と自慢げに語っていた侑を思い出す。きっと今日の寝起きの悪さは今までの疲れと昨日の夜の無理が祟ったせいだろう。
「ごめんごめん、無理させた俺も悪いし。なまえ最近頑張ってるから、腕を奮ってなまえが好きなやつ作った」
「元也君ありがとう〜」
「あ、待って。砂糖と塩間違えたような!?」
「え」
結局そんな下手な間違いはしてなくて、なまえの好きなとろとろのフレンチトーストはむしろ甘ったるいくらいだった。「しあわせ」と嬉しそうに頬張るその顔を見て、今日も一日頑張れそうだと古森も幸せを感じるのだった。
「おはようのちゅーみたいになまえからして欲しいなぁー」
「え?」
「ん?」
「…朝、私からしたの?」
「うん。寝ぼけてしてくれた」
家を出る際に行ってきますのちゅーを強請れば、寝ぼけて自分からキスしたことをようやく知ったなまえが恥ずかしさからか声にならない悲鳴をあげる。なまえの言うように子ども扱いをしてるつもりはないのだけれど、こんなに可愛い反応をみるとついついからかってしまうのもしょうがない。また、からかうように不意打ちで行ってきますのキスを落とす。
「!?」
「じゃ、行ってきまーす」
さらに真っ赤になって目に涙までためてうるうるしだす思った通りの可愛いなまえの反応に大満足した古森は、早く仕事と練習終わらないかなと意気揚々と会社に向かうのだった。