今日は珍しく双子が客席をやけに気にしていた。どちらにも新しい彼女が出来たとは聞いていない。気になる子でも来ているのか、それとも好みのタイプの子がいたのか分からないが絶好のネタにはなる。あとでからかってやろうかな、と試合中ぼんやり思ってはいたのだが、その気になる子とゆうのは俺の予想の斜め上をいっていた。
「なまえのおーえん聞こえてた??」
「もちろんや!手振ってたんも全部見えてたで!」
「どっかのアホ女と違ってサーブん時も静かに応援出来てて賢いわ〜!ええ子やなぁ!」
「えへへ、」
試合終了後、しばしの休憩時間を与えられ各々が他の試合を観戦しに行こうとしていた時、監督に呼び止められ宮ンズにインタビュー来とるから連れてこいと言われた。
「双子ならそこに」とつい先程まで小競り合いをしてた方をみたが落ち着きのないその2人の姿はそこにはもういなかった。
めんどくさ。と思うも金と銀の煩い二人組は目立つので探すのに苦労はしなかったのだが、見つけたのは見慣れた双子だけではなくて、そこには小さな女の子を抱いて、見たこともないくらい慈愛の表情を浮かべた双子に思わず俺は目を擦った。
「えぇ、何あれ…」
さらに近づいてよく見れば、幼稚園くらいの女の子を抱いた侑の表情は緩みっぱなしで治も仏頂面ではなくいつもより柔らかい表情な気もする。
一目見ただけでもこの双子がその子を溺愛しているとわかって写真をおさえたいとポケットを漁るがあいにく今はユニフォームのままなのでスマホはカバンの中である。
「侑くんもがんばってていい子いい子やねー!」
「…今日もうちの従兄妹が天使や」
「ツム、それには同意やけど、ニヤケすぎてきもいで」
「…侑、治。テレビのインタビューだって」
いつもと様子の違う2人に(特に普段人でなしの侑に)ドン引きしたが、ツッコミを入れるとややこしくなることは手にとるように分かっていたので、用件だけ伝えてこの場を去ろうと「向こうで監督が呼んでたよ」と声をかけると侑が嫌そうに顔を歪めた。
「む、せっかくなまえとおるのに邪魔しよって」
「なまえ、ええ子で待っててな」
「角名とお利口さんにしとくんやで〜」
「はぁい」
「え、俺?」
すぐ横に正体不明の女の子を置いて去ろうとする双子にちょっと!と声をかけようとすると左手に暖かい感触。ギョッとしてみれば先ほどまで侑に抱かれてた女の子が当然のように俺の手をにぎっている。
早々に去るつもりだったのだが、小さな子の手を振り解ける訳もなくチラッと横目で確認すると、くりっとした大きな瞳がちょうどこちらを見上げていた。
「お兄ちゃんのおなまえなんて言うの?」
「角名、です」
「侑くんと治くんのいとこのなまえです!角名くん、いつも侑くんと治くんがおせわになってます」
「いえいえ」
何の説明もなく押し付けていった双子とは相反してしっかりと自己紹介と挨拶をする双子の従兄妹、なまえにあいつらよりしっかりしてるじゃんと心の中で悪態をつく。
小さな子どもとどう話していいか分からない為、子ども相手に敬語を使ってしまう角名だったがなまえは気にする様子もなく、繋いだ手をぷらぷら揺らしてながら話続ける。
「角名くんもしあいでてた?」
「うん、まぁ」
「すごいねー!じゃあこんどは角名くんもおーえんするね!」
「…ありがとう」
人見知りせずにこにこと話続けるなまえに少しずつ角名もいつもの調子を取り戻して普段通りポツポツと話し出す。
「なまえ、もうすぐ1ねんせいなるねんけどな、」
「うん」
「おともだち100にんできるかしんぱいやねん」
「うん」
「角名くん、なまえのひとりめのおともだちなってくれる?」
「え、うん、いいけど。むしろ俺でいいの?」
「うん!角名くんがええの!」
相変わらず繋がれた手は違和感があるが、おともだちー!と素直に喜ぶ姿は無邪気で可愛らしいなまえには悪い気はしない。
目が合うとにこーっと満面の笑みを浮かべるなまえは純粋無垢そのもので、ずっと見ておくには眩しすぎて目を逸らすように視線を上げれば、稲荷崎のエースである尾白アランがこちらに歩いてきてるところだった。
「倫太郎?」
「あ、アランくんや!」
名前を呼ばれた角名よりも早くなまえがアランに気づいたその瞬間、パッと小さな手が離れ我が部のエースのもとにかけていく。
「おお、なまえやん。双子の応援か?偉いなぁ」
「アランくんもおーえんしてたよ!かっこよかったぁ」
「ありがとおな。で、その双子どこいってん」
「その子を俺に押し付けてインタビュー受けに行きました」
「珍しい組み合わせやと思ったらそういうことか」
話すのでいっぱいいっぱいだった角名と違って楽しそうに話すアランとなまえにようやくお役御免だとホッとするものの、あんなに居心地悪かったのにいとも簡単に離れていった小さな温もりが何だか少し寂しく感じてしまった。
「およ?アランくんもおるやん」
「お前ら、何の説明もなくなまえを置いてくな」
「え?やって角名おったし」
「やから倫太郎がびっくりするやろ」
「えー、でもなまえ人見知りせんし、それに可愛いやん?無条件で癒されるやん。むしろ感謝してほしいわ」
「…ハァ、そうゆう問題じゃないねん」
インタビューを終えて戻ってきた双子に角名から事情を聞いたアランがやんわりと注意を促すが、全く反省の色の見られない侑にアランが頭を抱えている中、治はなまえのもとにしゃがみ込んで視線を合わせる。
「置いてってごめんなぁ」
「んーん!角名くんがな、おともだちなってくれてん!」
「そうか、良かったなぁ。この調子やと1年生なる前に友達100人できるかもなぁ」
治に頭をポンポンと撫でられ嬉しそうに微笑むなまえを見て多分、治の方に懐いてるなぁと思いながら角名はまだ少し熱を持った左手の寂しさを埋めるようにユニフォームに手を突っ込んだ。
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