双子と従兄妹

「なまえ。見てたか!侑くんかっこよかったやろ」

「うん!侑くんいちばんかっこよかったぁ」

ある日の試合終わり。
本日も勝利をおさめた双子たちはその勇姿を見にきた小さな女の子に声をかけた。

てててと走ってくるなまえを迎えるため、侑がしゃがみ込むと待ってましたと言わんばかりにぴょんっと胸に飛び込んでくる。
小さな腕を侑の首に腕をまわしてぎゅっと抱きつくと、侑の顔をみて満面の笑みを向ける。
くりっとした大きなその目は嘘偽りなくキラキラと輝きながら侑を見つめている。

「ッッ!うちの従兄妹が世界一可愛い!!!」

その可愛さのあまり堪えきれず小さな身体を抱きしめるとなまえは侑に頬擦りしてキャッキャッと楽しそうに笑い声をあげた。
しかし、面白くないのは侑のすぐ後ろにいた治である。

「…治くんのがスパイク決めててかっこよかったやんなぁ」

「ハァン!?お前は引っ込んどれ!なまえは侑くんが1番って言ってるんですぅ〜」

「治くんもいちばんかっこよかったよぉ」

「え゛」

侑に抱きしめられてるため身動きが取れないなまえは顔だけ動かして治にニコニコと屈託なく笑いかける。

「治くん、だっこー」

「はいはい」

侑の腕の中からもぞもぞと小さな身体を動かして治に向かって両手を上げて抱っこをねだると今度は侑が不服そうに顔を歪めた。

なまえが今よりもさらに小さな頃、侑が抱いて遊んでた時にふざけた勢いで頭から落としたことがある。

すぐさま看護師であるなまえの母親が処置を行い、小さな切り傷で済んだのだが、それ以降から抱っこを要求する時は治に言うようになった。

侑から抱っこしても嫌がりはしないからトラウマにはなってないのだろうが、なまえと違って侑自身はこうして毎回地味にショックを受けてる。

今も自分の腕の中にいたなまえをひょいと抱き上げ、勝ち誇ったように笑う治に心底腹が立つ。
蹴りのひとつも入れたいところがなまえが抱かれてるので何も出来ず、じろりと睨みつけた。

「いや、1番が2人おるで!侑くんのが先に1番やったやんな?」

「いやいや、なまえの1番が最速で更新して治くんになってんな?」

「あんな、侑くんはいちばんボールさわってたから100点やねん」

「セッターやからなぁ」

「そんでな、治くんはなたくさん点入れたから100点やからどっちもいちばんやの!」

「なまえはよぉ見ててえらいなぁ」

「やから、なまえは侑くんも治くんも大すきやねん」

そう言ってにっこりと無邪気に笑うなまえに2人は一気に毒気を抜かれる。流石、うちの親族一同のアイドルである。身内での可愛がられっぷりは凄まじいもので、盆と正月などの親族の集まりではこの小さなアイドルの取り合いが始まるほどの人気っぷりなのだ。

「…サム、今回は同率で良しとするか」

「せやな、ツム。今日は引き分けや」

「おい、お前らはよ戻れよー。そろそろ帰るぞ。お、何や可愛い子抱いとるなぁ」

通りすがった監督が治に抱かれたなまえを見て一瞬驚いたような顔をする。
この双子の性格を知ってるからこそ、双子と幼女という組み合わせがしっくりこないのだ。

「そうでしょー。むっちゃかわええでしょー!」

「この子、俺らの従兄妹なんです」

「なまえ、この人はうちの監督」

「かんとく!?」

監督と聞いてなまえの目がキラッと光る。

「こんにちは!いつも侑くんと治くんがおせわになってます」

「偉い賢い子やなぁ、お前らも少しは見習いや」

降りたい!と治の服引いておろしてもらうと監督にペコリと頭を下げる。なまえは叔母である双子の母親がこうして頭を下げるのをよく真似するのだ。

それを見た監督は感嘆の声を上げ褒めるとなまえはキラッキラの瞳のまま、それはまるで憧れの人に会ったかのように褒めちぎりはじめた。

「かんとく、すごいなぁ!カッコええなぁ!」

「治くん治くん!なまえ、かんとくとあくしゅしたい」

「きゃあ〜!侑くん!かんとくにあくしゅしてもらっちゃったぁ〜」

「かんとく、かっこいいしやさしいからなまえかんとくのこと大すき!」

「なまえ、こんどは侑くんと治くんとかんとくのおーえんにくる!」

なまえの怒涛の好き好きアピールに監督は頭を抱えた。もちろん良い意味で。憧れの眼差しで監督をみつめ、にこにこ笑うみなまえの姿に監督は、こんな娘が欲しかった…と心の中でそう呟いた。

「…侑、治、その天使をちゃんと親御さんまで送り届けてき。遅れても俺が全責任をもって北に説明しとくから」

「「あざーす!」」

「…さすがなまえやなぁ。監督メロメロやったやん」

「監督、喜びすぎて天を仰いでたもんな」

この小さな従兄妹が天性の人たらしの持ち主でゆくゆくは監督だけではなく、バレー部もろとも稲荷崎生のほとんどがメロメロになってしまうことをまだ2人は知らない。

「なまえもかんとくのこぶんになりたい!」

「「子分?」」

「うん!侑くんと治くんはかんとくのこぶんでしょー?」

「あながち間違っとるとは言えへんけど何かと勘違いしとるな」

「もしかして親分とちゃうか?まったく関係しとらんけど」

「四文字の言葉ということしかあってへん」

「アホ可愛い…でも可愛いから許せれるわ」


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