「治くん、今日のなまえかわいい?」
「なまえは毎日可愛いで」
「えへへ、ありがとぉ」
ててて、とやってきて座ってる治にギュッ抱きつくとすぐに離れて、こてんと首を傾げて聞いてくるなまえの破壊力といったらそこらの男やったら可愛すぎて爆発しとるでと治は本気で思う。
今更、何を当たり前のことを聞くんやと真剣な顔で治が答えると、なまえは至極嬉しそうにはにかんで侑の方へとかけていった。何やったんや可愛いからええか。
「なまえがいっちゃん可愛いに決まっとるやん!!」
どうやら片割れの侑にも同じことを聞きに行ったらしく「世界一や〜!」となまえを抱きしめながら大声で叫ぶ侑に治以外のバレー部たちも目を向ける。何事やとみんな不思議な顔しよるけど、治は先程自分がされたような可愛いを詰め込んだ仕草のなまえに侑が興奮する理由は分からんでもない。
初めてなまえを稲荷崎に連れて来てから一ヶ月が経とうとするが、その日以降、毎週金曜日は宮家にお泊まりの前に稲荷崎にやってくるのが日課になっている。なまえの稲荷崎への馴染みっぷりは想像を超えるものだった。
元より素直で人懐っこいのでバレー部員と仲良くなるのに一日もかからなかったし、練習中はバレー部の邪魔をすることもないので邪険に扱われることもない。もしそのような扱いをするようなものがいたら宮兄弟からヤキを入れられるが、なまえの愛らしさは全国共通で通じるものがあり、双子ほど溺愛という訳ではないが大層可愛がられている。
「角名くーん」
「どうしたの」
「今日のなまえ、かわいい?」
「…可愛いよ」
侑の元を離れると近くの角名のもとにかけよる。治や侑と違って抱きつきはせず、控えめにズボンの裾を引っ張って角名の気を引いて上目遣いのなまえはいじらしくて可愛いらしい。なまえが可愛いと感じるのは治たちの身内贔屓ではなく、どうやら角名もなまえの可愛さを噛み締めてるようやった。
治がそのままなまえを目で追ってると尾白、銀島、大耳、赤木とどうやらなまえはバレー部員全員に聞いて回ってるらしくこのむさ苦しい男まみれのバレー部に可愛いを振りまいているようだ。コーチは天を仰いでるし、監督なんてもうニヤケきっていていろいろやばい。
「理っちゃん」
「なまえちゃんどうしたん?」
「なまえ、どんくらいかわいい?こんくらい?」
「うーん、こんくらい?」
「おお!」
レギュラー陣と少し離れたところにいた1年連中にも同じ質問ような繰り返す。なまえが両手を広げてどれくらい可愛いか理石に聞けば、理石は目一杯両手を広げてみせるとなまえは目を輝かした。なまえは理石を含めたバレー部1年を同じ1年生同士仲良しのつもりである。小学生と高校生の雲泥の差があるのだが、なまえが可愛いので全員黙認していた。
全員が今日も癒されるわとなまえの行動にほっこりしてる最中、いつもと変わらない男が1人。Mr.隙なしことバレー部主将、北である。なまえは迷うことなくまだ質問していない最後の1人、北の元にかけていく。
え、これはデレる北さんが見れるんちゃうん。治以外も愛嬌を振りまくなまえを見守ってたメンバーたちが北のもとにかけてくなまえを息を呑んで見守る。角名はすでにスマホで録画中である。
「信介くん」
「ん?」
「あのね、なまえ今日かわいい?」
北の元に着くと、流石に他の部員と違って初恋相手の北に聞くのは恥ずかしいのか、ちっちゃく深呼吸をしてから北の手をちょんちょんと引っ張る。上目遣いにこてんと傾げた完璧な角度のなまえの仕草に、もじもじと照れている要素が加わってなまえの可愛さの威力は最大放出である。なまえの可愛いさに思わずデレる北さんを押さえたい!と思わず角名のスマホを握る手に力が入った。
「なんや、リボン結んでもろたんか」
「うん!そやねん。信介くんとおんなじ白いリボンやの」
栗毛色のなまえの髪の毛が白いリボンで結われてることに北が気づくとなまえは可愛いと褒められた時よりも何倍も表情パァッと明るくさせる。肩までのびた長い髪を結んでることも珍しくはないが、どうやら今日は新しく買ってもらったばかりの白いリボンをつけてたからそれをみんなに見せびらかす為に可愛い?と聞いて回ってたらしい。
「お姫さんみたいで可愛いなぁ」
デレるとまではいかなくても、いつもより柔らかい表情の北が、かけまわって少し乱れたなまえの前髪を撫でる。北の一言に治がようやくなまえのお気に入りの絵本のお姫様のようにハーフアップにリボンをつけてることに気づいた。
「へへ、信介くんも王子さまみたいで今日もかっこいいね!」
「そうか、ありがとうな」
いいのが撮れたとほくほくしてる角名とは違い、侑と治はその光景にうなだれていた。治ですら気づかなかったことにしれっと気づいてしまう北に双子は「北さんには敵わへん」となまえの不動の一位の座を双子から奪いとった、現チャンピオンの北の付け入る隙のなさに頭を抱える。こうして北と双子の一位と二位の差がさらに遠のいていくのだった。
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