Honey-lemon tea break

こつん、と額が重なる。
「どーしたの、天爛」
「ずーっとパソコンと睨めっこしてる詩羽に、おしおき」
そう言われて降ってきたのは、優しげな甘いキスだった。

「あー、疲れたあ」
んーっ、と、伸びをして立ち上がる。
時刻は0時を回っている。今日も日付を超えてしまったようだ。
「無理しすぎはよくないぞ」
「天爛には言われたくないーー」
少しだけ頬を膨らませて言えば、痛いところを突かれた、というように、天爛は苦笑した。
「少し休憩しよっか」
それは、不器用な二人が、どちらからともなく言い出す、二人の時間を過ごすための言い訳だった。

お茶菓子代わりに、昼間焼いたスコーンの余りを用意した。
いただきます、の前に、あっ、と一つ思い出して、席を立とうとした私を制して、天爛が立ち上がる。
いたずらっ子のように、きらりと瞳が楽しげに輝いて、不覚にもきゅんとしてしまった。
「そのくらい、できるよ」
少し自慢気に言った天爛は、冷蔵庫にしまっておいた瓶を取り出す。
「覚えたから」
「早いねー! さすが天爛」
言葉には発していないのに、お気に入りのドリンクに気付く彼は、やはりというかなんというか、さすがは私の彼、というか。
島レモンのコンフィチュールを一匙。そして、甘い甘い蜂蜜を、二匙。熱湯を注いでおいたカップに入れて、溶かす。
残ったジャムはスコーンのお供としてそのままテーブルへ。
「だって、詩羽が教えてくれたから」
天爛は、俯きながら、そう恥ずかしそうに言ったけれど、恥ずかしいのは私も同じだった。
天爛はそんな私を見て、恥ずかしさを隠すように、私にできたてのホットドリンクの入ったコップを突きだした。
「はい」
「ありがと」
受け取って、一口飲めば、優しい甘さが広がる。
「美味しい」
「まあ、失敗しようがないけどな」
天爛は苦笑して、私の頭を撫でてくれた。くすぐったくて優しくて、温かい気持ちになる。
ホットドリンクを飲んでるから、っていうのもあるのかな。
「そう? 甘くなりすぎちゃうことはあるかもよ」
「じゃあ、やってみる?」
真面目に答えた私に、またしてもいたずらを思いついたようなキラキラの瞳が振り返る。
そして、天爛の意図が掴めた気がして、一瞬で思考回路が、瞳のキラキラから意識が飛ぶ寸前まで星のように脳内で流れて、強制終了させられる。
それって、……そういうこと、なの?
自分の思考に頬が火照り始めた私は、それを隠すことすら忘れて、捻り出すように言葉を呟いた。
「……もう、それ以上甘くしたらダメ」
言葉にすることすら恥ずかしくて、つい視線が逸れる。
「どうしようかな」
天爛の耳がほんのり赤くなっていることまでは、私に見えていないと思っているのだろう。
重ねた唇からは、甘い初恋の味がした。


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bkm
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