蝉はまだ眠っている頃で、そもそも梅雨もまだ到来してないというのに、なんだこの暑さは。
こんなんじゃやってらんない!と、僕となまえは仕事を放棄して、自動販売機のアイスクリームをひとつずつ買った。一口かじると、つめたくて甘い。

「鬼男君は、アイスかじっちゃうの?」

なまえの質問の意味が一瞬分からなかったけど、彼女の食べかけのアイスに目をやってなるほど、意味がわかった。

「みっともないじゃんか、男がアイスを舐めて食べてたら」
「そんなことないと思うな」

なまえを含めてだけど、女の子は舐めて食べる子、多いよな。わざとそういう風に食べてるんじゃないかって思う時もある…暑いからだろうか、だめだ、ヘンな考えを起こすのは止そう。
にじんだ汗がつつっと流れたら、アイスも溶けだしてくる。
さっきから誰かさんの視線が痛くて、もしかして、変なことを考えてたのがばれたんじゃないか。

「なに?」
「私、男の人の喉仏が好きなの」
「はあ?」
「汗できらきらしてる」

「暑さでとうとうおかしくなったんだ」と、少し不憫に思うと同時に、なまえの喉をみながら、あんたの喉も同じだ、と思った。

「なまえの喉が好きだ」
「わ、わたしの?」
「アイスを舐めとって、喉が上下に動くのがすごくいい。いろんなものを飲ませたくなる」

なまえは素っ頓狂な声を出してから、生唾を飲んだ。「ごくり」という音がここまで聞こえた。

「生唾飲み込んで、なに考えたの?」
「鬼男君がへんなこというからだよ!」

二人一緒に暑さにやられておかしくなったみたいだ、へんなの。

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