きみがすき7 | ナノ





きみがすき7

 今週は水曜が休みだと言った光を部屋に置いて、礼治は電車に間に合うように足早に歩いていた。亮祐が来るのは週末で、来る前には必ずメールをくれるため、特に彼へ光がいることを伝えていなかった。
 持参した弁当を休憩室で広げていると、携帯電話が鳴り始める。光からの電話だった。
「どうした?」
 光が買い物から帰ると、亮祐が扉の前にいて、礼治の帰りを待っていると言ったため、中へ入れた、と告げられた。
 光の声は落ち着いていたが、礼治は彼の口から亮祐の名前を聞いてあせった。亮祐の存在は光へ教えていない。とうぜん、光は自分と亮祐との関係も知らない。
 どうしてこんな時間に、というのが最初の疑問だった。亮祐は大学生であり、この時間は学んでいるはずだ。仮に講義が休講になり、時間を持て余したとしても、社会人である礼治がいない時間には部屋を訪ねたりしない。まして、事前のメールもなしに来るなんてことは今まで一度もなかった。
「俺、礼治の友達は全員把握してるって思ってたけど、違ったね」
 おそらく含みも何もないだろうが、礼治は冷汗をかくくらいには動揺していた。亮祐のことだから余計なことは話さないだろうと思える。だが、ほんの少し、彼の行動に腹が立った。
 追い返せそうなら、追い返せと言いたいところだ。礼治は小さく息を吐き、今日は絶対に定時で帰ると決めた。

 階段を上りきった時、息が上がっていた。礼治はいつもより急いで帰ってきたのだと気づき苦笑する。鍵は光に預けてある。インターホンを鳴らすと中から光が開けてくれた。
「ただいま」
「おかえり」
 光からその一言をもらえるだけで、気分がよくなる。だが、亮祐のスニーカーを見つけて、やはりまだいるのか、と一瞬だけ暗い気持ちになった。
「亮祐君って俺達の後輩なんだね」
「あぁ、うん」
 リビングへ入ると、亮祐の姿はなかった。視線に気づいた光が、「こっち」と寝室へ入る。ベッドの上には亮祐が眠っていた。少し呼吸が早い。額には濡れタオルが乗せられていた。
「風邪、引いてるみたいでさ、とりあえずお粥、買ってきて、薬、飲ませた」
 礼治は鞄を置いて、スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩める。
「俺、帰るね」
「え?」
 リビングのほうへ戻りなら、光がラグの上にある彼の私物を鞄へ入れていく。
「だって、寝る場所もないし、ちーちゃんに電話したら、戻ってきてって言ってくれたから」
 光は嬉しそうに笑う。礼治は頷いたものの、大きな悲しみと深い怒りで拳が震えていた。今週末まで一緒にいてくれると思っていた。今夜は光の好物のピーマンの肉詰めを作ろうと思っていた。
「鍵、ここにあるから。また連絡するね。あ、亮祐君によろしく」
 光が出ていった後、礼治はラグの上に座り、煙草を吸う。光の様子から亮祐は不要な情報を光に与えていないことが分かる。だが、光が亮祐と自分のことを突っ込んで聞いてくれないことにもいら立ちを感じた。
 どこで知り合った、どういう知り合いなのか、光は気にならない。まるで無関心に思える。礼治は煙草を灰皿の中で乱暴に潰した。寝室へ行き、照明をつけると、うなされている亮祐を見下ろす。
 光が寝ていたベッドなのに、と思うと、自然と手が動いた。かけ布団をめくり、亮祐の体を抱える。礼治は彼を自分が寝ていた布団のほうへ移動させた。うっすら目を開けた彼が寒そうに震える。
「……れ、れい、じさ、ごめ、おれ、ケータイ、こわれて」
 礼治は亮祐の言葉を受け流しながら、収納ケースから冬用の毛布を取り出す。それを彼の上へかけた。
「こういうこと、今後はやめてくれないか?」
 礼治は亮祐の耳元へくちびるを寄せる。
「俺達の間にあるのはセックスで、こういう時、おまえが頼るべき相手は俺じゃないだろ」
 礼治が顔を上げると、亮祐が小さく頷いた。彼の瞳から涙があふれる前に、礼治は濡れタオルをずらして、彼のまぶたの上に置いた。

6 8

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -