きみがすき5 | ナノ





きみがすき5

 近くのスーパーまでは徒歩で十分もかからない。礼治は自分の速度で歩きながら、夕飯のことを考えた。光の好きな料理は知りつくしている。嫌いなものも頭に入っている。
 亮祐は出せば何でも食べた。スーパーの前でチラシを見ていると、ようやく亮祐が追いつく。セックスの後だということを忘れていて、ついいつもの速度で歩いていたが、彼はまだアナルに違和感があるのかもしれない。
「大丈夫か?」
 悪かったな、と思いながら聞くと、亮祐は顔を赤らめた。
「大丈夫」
 礼治はカゴを持って、左手側の野菜売り場から順番に回る。自炊を覚えたのは大学生になってからだ。礼治の家は共働きで、母親は弁当を作る時間もなかったため、給食のない高校から昼食はコンビニか購買で買わされた。
 そのせいか、礼治は外食じたいがあまり好きではない。自炊だと自分好みの味にできるし、経済的なことも含めて得だと分かり、社会人になっても弁当は持参していた。
 お買い得品になっているホウレンソウとトマトをカゴへ入れる。キャベツは安くはなかったが、手に取った。肉売り場の前で豚肉のパックを見比べていると、亮祐がカゴの中へお菓子を入れた。
 何も今日に始まったことではない。亮祐と買い物に来ると、彼は毎回、何かカゴへ入れる。たいていはお菓子だが、時々、さしみこんにゃくだったり、リップクリームだったりした。
 六枚切りの食パンと豆腐も入れて、礼治はレジへ並んだ。亮祐は何も持っていないが、うしろへ並ぶ。
「あ、亮祐」
 豚肉の生姜焼きにしようと考えていた礼治は、生姜を入れ忘れたことに気づいた。
「生姜、取ってきて」
「それ、どんなやつ?」
 礼治は亮祐の言葉に苦笑いする。
「ここで待ってて」
 生姜を一袋取って、レジまで戻ると、ちょうど会計が始まったところだった。礼治は、「すみません、これも」とカゴの中へ入れる。財布から金を出して払っている間に、亮祐が袋詰めしてくれた。
「これが生姜か」
 亮祐の生活や家庭環境を知らないが、彼もおそらく出来合いのものばかり食べているのだろう。礼治は亮祐の手から袋を取った。
「持つよ」
 亮祐はそう言って、手を伸ばしたが、礼治は渡さない。来た道を帰る途中で、携帯電話が鳴った。礼治は立ち止まり、受信したメールを開く。読み終わった後、同じように立ち止まっていた亮祐へ袋の中からお菓子を渡した。
「光が来るから、帰ってくれ」
 こういうことはこれまでに何度もある。亮祐は、「分かった」と言って、駅のほうへ歩き始めた。彼の表情は変わらない。初めて言った時もそうだ。礼治は怒るかな、と思ったが、彼は心得ているとばかりに踵を返した。
 最初の頃は後味が悪かった。だが、自分達の間にあるのは体の関係という割り切ったもので、しかも、亮祐には別の男がいる。そのことに気づいてからはあまり悩まなくなった。
 礼治にとってのいちばんは光だ。それを理解した上で亮祐は礼治のもとへ来る。礼治は振り返ったりしない。まっすぐに部屋へ戻った。

 光はまた泣きながらやって来た。作り終えた生姜焼きのタレの中へ豚肉を漬けている時に、インターホンが鳴った。扉を開けると、光が盛大に泣き出す。
「ちーちゃんがもう俺のこと嫌だって言った」
 悲しいことに礼治は何を言われても、すぐに、「そんなことないだろ」と慰める癖がついていた。光の頭をなでて、中へ入るように促す。
 礼治は麦茶をグラスへ注ぎ、ラグの上に座って泣いている光へと差し出した。
「ありがと」
 グラスの縁に口をつけて、ごくごくと飲む光の喉を凝視してしまう。あの喉へ噛みつけたらいいのに。礼治は彼が飲み干すまでずっと見つめていた。

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