よあけのさき45 | ナノ





よあけのさき45

 ラファルは松葉杖をつきながら、病院の廊下を歩いていた。右足首は剥離骨折だと言われ、長期間放置したため、手術をしなければならないと説明を受けた。正直、ラファルはこのままでもいいと思っていたが、先に説明を受けていたアルベルトが勝手に入院手続きを済ませていた。
 右足首はしっかりと固定されており、あと数週間もすれば外せると言われていた。その後はリハビリをするしかないが、痛みは完全に取れるわけでもなく、骨折しやすくなるだろうと説明を受けた。
 ラファルは前後についている護衛に気づいていた。この病院はアルベルトの友人が経営しているらしい。特別個室へ入っているが、セキュリティーは万全だった。
 用を足した後、個室へ戻ると、アルベルトが担当医と話し込んでいた。担当医の手にしている紙を見て、ラファルは立ち止まる。
 手術前に一通りの血液検査と性病検査を受けた。ランベルトのところにいた時も月二回は必ず受けていたが、時間の経過とともに発症している可能性もある。
 アルベルトが中へ入るように促した。ベッドに腰かけると、担当医が紙を差し出す。ラファルは松葉杖を置き、その紙を見た。見方が分からず、視線を上げると、アルベルトがほほ笑む。
「大丈夫だ。問題ない」
 ラファルはほっとして、紙をアルベルトへ渡した。
「明日の午前中だな。十時までに迎えにくる。準備はエドワード達にさせればいい」
 頷いたが、ラファルは自分で片付けようと思っていた。護衛から身の回りの世話までしてもらうのは気が引ける。
 アルベルトはしばらくの間、ラファルと話した後、仕事に戻ると言った。ランベルトは不起訴処分になり釈放されていたが、アルベルトが計画した通り、現在は資金がつきた状態だった。そして、レンツォや他の組織と手を組んだと噂されていた。
 アルベルトは自分自身で組織を作る気はないらしく、あくまで企業としての姿勢を崩さないが、人身売買や薬物売買をしていないだけで、中身は他の組織と変わらない。その主な財源はマネーロンダリングだった。
「あ、待って」
 ラファルは松葉杖を持って、立ち上がる。
「エレベーターまで見送る」
 殊勝なことを言っているわけではなく、単純にリハビリをかねた歩行練習のつもりだった。だが、アルベルトは手で口元を押さえて、大きな笑みが見えないように隠す。そんなことで彼を喜ばせているのかと思うと不思議な気がした。
 手の甲にキスをする以外、軽い接触しかない。気が済むまで待つと言った通り、アルベルトは驚くべき自制心を持っていた。ラファルは彼の誠意に気づくたび、今度は彼に対して申し訳ない気持ちになった。
 だが、好きという感情は強制して生まれるわけではない。アルベルトのことは嫌いではない。それでも、そのことを考え始めると、彼もカプローリ家の一員であるということを思わずにいられない。
 エレベーターの前でアルベルトが抱き締めてくる。ほんの少しだけ強く抱いた後、すぐに離してくれた。
「また明日」
 扉が開いた瞬間、中から黒い影が飛び出してきた。
「ラファル!」
 エレベーターの中から出てきた男は、ラファルの腕を引っ張り、すぐに中へ引きずり込む。扉が閉まる前に、男はアルベルトのほうへ足を振り上げた。
「久しぶりだな」
 男はすぐ下の階でラファルを突き飛ばした。エレベーターは一階まで降りていく。廊下の手すりにつかまり、立ち上がったラファルは、非常階段のほうへ逃げようとした。男の手がうしろから伸ばされ、トイレへと連れ込まれる。
「覚えてないのか?」
 男はラファルの腹を手洗い台の突起へぶつけた。うつむくと髪を引っ張られて、鏡の中の男と視線が合う。
「……ジョン」
 人相が変わっていたが、瞳の色や声はジョンのものだった。彼の瞳は怒りに燃えている。ラファルは状況が分からず、その怒りを見つめるしかなかった。

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