エウロパのうみ33 | ナノ





エウロパのうみ33

 柔らかなシーツと善の熱い体に挟まれて、時和はその間に埋もれてしまいたいと思った。一度、解放されたペニスは、憎いほど簡単に勃起する。彼の手や愛撫は、とても気持ちいい。自分本位の欲情をぶつけられるわけではなく、薬によって強制的にもたらされる心地よさでもない。
 時和はあえぎながら、泣いていた。愛する相手から愛される相手へすり替えることができる自分の醜さと強さに、制御できない涙があふれた。善へねだり、きて、と声を出す。自分の声ではないような、甘えた音だった。
 罰するように抱いて欲しいから、激しくしてください、と願いを口にした。だが、善はじれったいほど、ゆっくりと優しく抱いた。彼の性器をアナルへくわえ込んだ時、時和は少しも痛みを感じず、与えられる愛撫に身を任せていた。
 善は性感帯を探り、こちらの反応を一つも逃さず、ただ甘く痺れるような幸福感だけを味合わせてくれる。体位を変えて、三度目の絶頂を迎えた頃、時和の意識は肌触りの優しいシーツの間に沈んでいった。
 意識が揺れる。水の音に少しだけ体を動かすと、善の肩が頬に当たった。じんわりと温かいのは、バスタブの中にいるからだ。時和はバスタブの縁へ手を伸ばす。
「全部、洗い流したよ」
 それが先ほどの情事の痕跡のことだと理解していたが、善の言葉は、これまでの嫌なことを指している気がした。時和は彼の肩へ頬をすり寄せる。彼が何とこたえてくれるか、もう知っている。彼に任せておけばいい。時和は髪にキスをする彼の吐息を感じながら、もう一度、目を閉じた。

 起き出したのは昼間だった。時和は重い腰を擦り、マスターベッドルームからリビングダイニングへと出ていく。テーブルの上にメモが置いてあった。冷蔵庫の中にはメモにある通り、サンドウィッチが入っている。時和はミネラルウォーターとサンドウィッチを取り出し、ソファへ座った。
 テレビをつけて、遅い朝食を口へ運ぶ。口を開いた時、くちびるの端に痛みを感じた。時和はサンドウィッチを箱へ戻し、バスルームへ入る。大きな洗面台にある鏡には、左頬に青あざのある時和自身が映し出される。
 そっとそのあざへ触れ、時和は顔をしかめた。明達のことは、もう忘れよう。何度か瞬きを繰り返すうちに、視界がにじむ。それでも、最悪の形での失恋から立ち直ろうと、時和はほほ笑んでみた。
 くちびるの端が痛くても、ほほ笑んで、サンドウィッチを頬張る。時和は泣きながら、食事を済ませ、携帯電話を探した。母親に連絡を入れるためだ。ベッドルームへ戻り、昨日、着ていた服のポケットから携帯電話を引っ張る。
 休みだった母親はすぐに出てくれた。明達は家を知っている。もし、母親にあの映像を見られたらと思うと、時和は団地からの引っ越しを提案したくてたまらなかった。だが、善の部屋であるここへ、母親を呼び寄せるわけにはいかず、別の新しい部屋を探せるわけでもない。
 当たり障りのない話をして、時和は電話を切った。ソファへ寝転び、名前も知らない芸能人が話す言葉を聞きながら、目を閉じる。眠いわけではないが、体は休養を必要としているらしい。時和は数分と経たない内に深い眠りに落ちた。
 眠ってばかりいたせいか、夢の中で睡眠薬の話が聞こえた。視界の先には善のうしろ姿が見える。彼は誰かと話していた。こちらに気づき、電話を置き、「時和」とくちびるを動かす。彼の笑顔を見て、時和も笑顔を返した。この人は大丈夫だと信じている。この人は好きだと、実感している自分がいる。
「時和、まだ眠そうだね」
 くすくすと笑われても、時和は頷く以外にない。善の香りに包まれながら、彼の腕の中で引き続き、夢を見ている。


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