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「ヨシタカ、もし時間があるなら、一緒に人工浜まで行かないか?」
「人工浜?」
 星がもっと綺麗に見える場所だと返され、由貴は何度も頷いた。
 由貴はこの村を気に入っているし、村人たちも親切だが、まだ誰かと何かを一緒にする、という付き合いはない。そこまではまだ誰とも親しくなっていなかった。
「上着を持って出たほうがいい」
 アランに助言され、由貴がフード付パーカーを手に玄関へ行くと、彼はもう車のエンジンを入れていた。今まで気づかなかったが、彼の車はいつも向かいの道路へ駐車されていた。
「僕の父の車と同じ車種だ」
 いつもの席とは逆に座り、由貴が言うと、アランがゆっくりと発進させながら聞く。
「免許は持っているのか?」
「はい、一応」
「……なら、この車で練習すればいい。右車線なんてすぐに慣れるさ」
 前を見ているアランの横顔を由貴は静かに見返す。微かにだが、彼が笑っているように見えたからだ。
「冗談、ですか?」
「いや、本当に練習したらいい。ただ、俺は、最初に君を見た時、十六歳なのかと思ったから。さすがに、十八歳だよな」
 その言葉は独白のように早かったが、由貴は一言も漏らさず聞き取れた。
「あの、言いにくいけど、僕は二十二歳です」
 どこかで似たようなことがあった、と由貴は急ブレーキに備えて体を硬くする。だが、アランは突拍子もなく驚いたりはしなかった。
「そうか。二十二歳だったのか」
 それもやはり独り言のように言い、運転を続ける。道を覚えているわけではないが、由貴の見たところ、人工浜というのは村内の場所のようだ。舗装された道路から外れ、砂利道を行くと徐々に森林地域に入る。
「少し歩くのもいいだろう?」
 アランは車を端に寄せて停めると、降りようとする由貴に注意する。
「泥を踏まないように気をつけろ。時々、ぬかるんでいることがあるから」
 由貴は少し肌寒く感じて、持っていたパーカーを羽織る。
「こっちだ」
 夜露に濡れた草の上を歩いていくと、目の前に湖が見える。アランが振り返って言った。
「これが人工浜。この土地にある砂利は色んな用途に使われる。昔は人の手で、今はあそこの掘削機で掘り下げていくんだ」
 アランの指先の向こうには、大型の掘削機のほかにもトラックらしきものもあった。
「掘り下げていくうちに、この人工の湖が造られた」
 由貴の立っている場所から、少し先はすでに砂丘のような地形になっており、砂利でできた大きな山が見える。
「すごい。砂浜にいるみたい」
 由貴が砂利でできた山の上を歩くと、まるで砂浜を歩くように足が埋もれていく。しゃがんで手につかんだ砂利は、さらさらと指の間から落ちていく。
「湖の水も綺麗で、夏はよくここに泳ぎに来た」
 アランは水際に立って対岸を眺める。由貴がその隣へ立つと、彼は水草の育った対岸を指差して説明を始めた。
「あの水草の育った場所で、皆、釣りをするんだ。マスはさすがにいないかもしれないが、コイくらいはいると思う」
 小さな波の音とアランの声音に、由貴は満ち足りた気分で彼を見る。初めて会った時の印象とはかけ離れた、優しい表情の彼が微笑んでいる。
「この湖が海のように見えるのは、西からの風が強くて、こんなふうに波が寄せてくるからなんだ。明るいうちに来れば、水の色にも気づくだろう。透明で、中へ進めば進むほどグリーンとブルーを混ぜた色になる。中で育っている水草の色と空の色だ」
「いい散歩コースになりそう」
「あぁ」

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