よあけのさき23 | ナノ





よあけのさき23

 警察庁長官の男はカプローリ家の客だった。嗜虐的な抱き方はしないが、何度も挑んでくる相手だ。
 ラファルは朝方まで男の腕の中で過ごした。スイートルームを出る男を見送ってから、もう一度シャワーを浴び、服を着る。
 ミニバーからミネラルウォーターを取り出したラファルは、手が震えていることに気づいていた。渇望感から一気に水を飲んだが、喉が渇いているわけではなかった。ポケットに入っているクスリに触れる。
 なるべく飲みたくないと思っても、それはもうむなしい抵抗だった。水と一緒に錠剤を飲み込む。しばらく目を閉じて、震えがおさまるのを待った。
 目を閉じていると、ルチアーノの姿が浮かぶ。ルチアーノが自分達の関係をどんなふうに考えていたか分からないが、いつも兄のように接してくれた。ラファルは体の関係がなかった分、本当の家族より深いつながりを感じていた。
 ラファルはルチアーノを返してもらった日のことを思い出した。人間が三人は入ることができそうな大型冷凍庫から、男達がルチアーノを持ち上げた。ラファルは泣くまいと歯を食いしばった。
 男の一人がルチアーノに毛布をかけた後、ラファルの足元に置いた。ラファルはルチアーノを抱き締め、その頬にキスを落とした。
 ランベルトの顔など二度と見たくなかった。だが、ルチアーノをこのまま手元に置くわけにはいかず、ラファルは彼に頭を下げて、車を借りた。尾行する車をまいて、市外にある森林地帯へ入った。
 とある場所で土を掘った。すぐに空き缶が出てくる。ラファルは空き缶を脇へ置いて、より深く掘り、毛布にくるまっているルチアーノを横たえた。ラファルはその上に彼が好んで吸った煙草の葉をまいた。
 ルチアーノは、「大丈夫?」と声をかけて、自分を救ってくれたのに、自分は彼を救えなかった。状況は関係ない。結果だけが残るからだ。
 ラファルは責めるように、右手にあった切り傷をかきむしった。血よりも早く、涙があふれた。
 復しゅうは償いにはならない。それは分かっている。だが、深い悲しみは大きな怒りになった。
 ラファルは掘った穴のそばで腹這いになり、毛布から出ているルチアーノの髪に触れた。それから、涙を拭って、土を被せていく。
 八割まで土を戻したところで、空き缶を並べた。中にはラファルがこれまで貯めた金が入っている。
「……雪の降るところへ行こうな」
 
 ラファルは目尻から流れた涙を拭うと、部屋を出る。泣いていたが、クスリのせいか、体は軽く、精神的にも楽だった。クスリが切れかけている時のほうが、自分を責めることが多い。
 上がってきたエレベーターに乗り込み、エントランスへ停まるようボタンを押した。目を閉じると涙が出るため、ラファルは手すりに体をあずけて、うつむく。
 ランベルトはあの夜、土で汚れ、右腕から血を流すラファルを抱いた。彼はルチアーノを埋葬した場所を聞き出そうとはしなかった。代わりに、ルチアーノが死んだのは、おまえのせいだ、と何度も言った。反論はしなかった。ラファル自身、事実だと考えている。
 最上階から降下したエレベーターは十階の大ホールで一度、停まった。うつむいていると、上等な革靴が視界に入ってくる。ラファルは顔を上げず、そのままの姿勢でいた。
 体が宙に浮くような感じと、胃をつかまれたような痛みにふらつく。
「大丈夫か?」
 右の上腕部を軽くつかまれて、ラファルはようやく顔を上げた。支えてくれた男は背が高かった。短く整えられた黒髪とエバーグリーンの瞳が印象的な男だ。どこかで見たことのある顔だった。

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