ゆらゆら番外編7 | ナノ





ゆらゆら番外編7

 シャワーを浴びている一成を待つ間、孝巳は仰向けに転がったまま、天井を見つめた。今夜は特に激しかったが、彼の父親のことが原因だと思われた。孝巳は家族仲の良い環境で育った。少なくとも幸喜とのことがあるまでは、そう言い切れると考えている。
 一成は彼自身のことを話さないため、孝巳は周囲から聞こえてきた噂程度のバックグラウンドしか知らない。そして、それが本当なら、母親が一成のところで世話になるように、と言った理由も分かる。
 バスタオルを取り、下着をはいた一成がベッドへ腰かけた。いたわるように背中をなでられ、孝巳は目を閉じる。愛している、と言われた時、孝巳は彼のことが好きだけれど、同じ気持ちにはなることができないと思った。
 愛の中に込められる気持ちの深さが、異なる気がした。それに、孝巳はまだ一成のことをほとんど知らない。彼の父親の伝言を受けて、「一仁っていう人のこと、許してあげたら?」と言えるほどの仲ではない。
 こめかみにキスされた。汗を流すため、シャワーを浴びたというのに、一成はまだ足りないらしい。孝巳がこたえるように彼の足へ自分の足を当てた。一成は孝巳の体へ覆い被さり、指先で器用にアナルを探る。目を閉じて、また開き、こちらを見ている一成の瞳を見つめ返した。
「一成」
 恋愛は何か共有できることがなければ、成り立たないと思っていた。もっと会話して、互いのことを知らなければ、いつかこの関係は終わってしまう。それを望んでいるようで、実際のところは望んでいない、あいまいな自分にいらだつ。共有できることはなくてもいい。ただ共有したいと思うことのほうが大事だと、孝巳はようやく理解していた。
「しばらくここにいろ」
 ジムにはもう行くな、と含まれる。
「でも……」
 危険は何もなかった。一成はアナルから指を抜き、寝室から出ていく。戻ってきた彼の手にはウィスキーがあった。もう一度する気はなくなってしまったらしく、それを飲みながら、ナイトチェストの上にあった小型のパソコンを引き寄せる。
「……おまえが俺を許しても、俺にはできない」
 具体的に人物が出てきているのに、それが指すものは抽象的すぎて、孝巳には一成の言葉がよく分からない。
「一成は、俺が許さないといけないようなこと、した?」
 マウスを動かす手をとめて、一成が振り返る。涙をこらえるような表情だった。この関係になったきっかけを指しているのかと考えるより先に、彼を抱き締めるための腕が伸びた。孝巳は彼を恨んでいない。怒りも感じていなかった。横から抱きつき、一成の肩へ額を当てる。
「あの夜、おまえを暴行したのは、俺の兄だ」
 ソファから振り返った時、中に入ってきた男の顔がよぎる。少し一成に似ていた気もするが、細部までは思い出せない。
「別にもう、気にしてない」
 そのことを気に病んでいたのか、と孝巳は一人、納得した。軽くくちびるを合わせると、一成の手が後頭部を押さえ、熱い舌が口内をなでた。
「もし、俺の兄達が一成を傷つけたら悲しいけど、一成だって許してくれる」
 だから、自分も許すと言った。一成は苦笑して、ウィスキーを飲み干した。パソコンの電源を切り、何かから守るように自分を抱く。
「……誰もいないところに行きたいな」
 願望のように聞こえたが、孝巳に尋ねているようにも聞こえる。誰もいないところというのは、自分もいないところか、と声を出そうとした。視線を上げると、目を閉じて眠り始めた一成が見える。
 孝巳は一成の手に触れ、小さな声で、「愛してる」とささやいた。その深さはどれくらいか分からないが、孝巳は彼が今、沈んだ深さまで届いているといいと願った。


番外編6

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