よあけのさき20 | ナノ





よあけのさき20

 それでもなお、ラファルは母親を本当に憎むことはできなかった。実際、男にそう聞かされた時、ラファルは怒りではなく、悲しみで満たされた。
 やはり自分は失敗だったのだと考えた。だから、彼女の役に立てば、認めてもらえるかもしれない。まだ子どもだったラファルはそう思った。
 憎むべきは環境であり、母親の仕事であり、彼女自身ではない。理性ではそれを分かっていた。
 だが、感情的になると、やりきれない思いが心に留まり、ルチアーノが言った通り、一番憎しみを向けやすい相手へその思いをぶつけた。
 雪を見たことがないのに、ラファルは目の前に舞う白いものが雪だと分かった。引っ越そう、とルチアーノが声をかける。
 やり直したい。
 そう思って、目を開くと、レッドブラウンの絨毯が見えた。
 ひどい頭痛だった。喪失感に自分の手を見ると、血がついていた。アルコールのにおいが頭をくらくらとさせる。
「あー、やっと起きた?」
 ランベルトの声に体を起こすと、デスクの上でキーボードを叩いていた彼が、受話器を上げた。
「ルチアーノだっけ? 会わせてあげるから、その錠剤、飲んで」
 ラファルは下着とジーンズをはき、壁に手をついて立ち上がった。
「いいね、その目。興奮する」
 夢の続きのように、ラファルは憎しみを目の前の相手へぶつけた。
 三錠に減ったクスリを手に取り、一錠だけ口に入れる。テーブルの上にあったウィスキーを流し込んだ。ラファルは口を拭うふりをして、クスリを吐き出し、手の中へ隠した。
 もう手遅れだと思ったが、なるべくクスリを入れたくない。幸い、まだクスリは切れていないようだった。
 ノックの後、入ってきた男にランベルトが指示をする。ついて来るように言われ、部屋を出ようとすると、ランベルトが二錠に減ったクスリを持って行けと命令する。
 ラファルはそれをポケットへ入れる際に、手の中の吐き出したクスリも突っ込んだ。

 男達はラファルを地下へと連れて行った。地下は防音扉の向こうに通路があり、両側に個室の扉が並んでいた。手前の右にある扉の鍵を男が開ける。
 扉にはプラスチックか何か分からないが、中をのぞける板が目の高さにあった。下部にはおそらく食事を出し入れする小さな枠がある。男は扉を開けた後、中へ入るように促した。
 二人の男はすぐに扉を閉めて去って行く。鍵をかけられたが、ラファルは気に留めなかった。部屋の端でぐったりしているルチアーノに駆け寄る。
 壁も床もむき出しのコンクリートで、窓はなかったが、換気扇が回っていた。排水溝もあり、ルチアーノは水でもかけられたのか、ずぶ濡れだった。
「ルチアーノ!」
 ラファルは自分のTシャツを脱ぎ、全裸のルチアーノに被せた。鞭で打たれた痕や切り傷が目立つ。アナルからの出血は彼の下半身を汚していた。体はまるで死んでいるかのように冷たい。
「……ル」
 腕の中の冷たいルチアーノは目を閉じていた。気を失っているわけでもなく、眠っているわけでもない。アナルからの出血はまだ続いている。
 ラファルの視線の先に血のついた卑猥な道具や器具が転がっていた。そのどれもが、ラファルでさえ、入れるのをためらうようなものばかりだ。
「……う、嘘だ、嘘だっ」
 ラファルはルチアーノの右手首を取り、脈を確認する。首筋へも手を当てた。嗚咽が漏れた。彼は息をしていない。
「ルチアーノ、起きて。起きて? 俺ももうやめるから、引っ越ししよう? ほら、早く起きて」
 ルチアーノの体を揺さぶる。ラファルは自分の熱を与えるかのように彼を強く抱き締めた。涙が彼の頬へ落ちる。

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