よあけのさき7 | ナノ





よあけのさき7

 コインランドリーで携帯電話を握ったまま、ラファルはうとうとしていた。乾燥機が終了を知らせる音を出す。ラファルは小さく伸びをした後、乾いたルチアーノと自分の洗濯物をかごへ詰め込んだ。
 携帯電話に新しく登録されていた名前はマウロだった。マウロが何を意図して接触してきたのか、どこの組織の人間であるのか、すぐに発信するか、部屋へ乗り込んで尋ねたいが、ルチアーノがいる間はためらわれる。
 何よりラファルが心に秘めていることを、どうして知ったのか。ルチアーノにしか話したことがないはずだった。あるいは、情報収集に徹し過ぎて、カプローリ家のことばかり追っているとどこかに漏れているのだろうか。
 部屋へ戻ったラファルの携帯電話が鳴った。眠っているルチアーノを起こさないように、ラファルはリビングを抜けてキッチンへ向かう。電話はサントからだった。今からホテルへ来い、と言う。
 サントの声は少し焦っているようだった。ラファルはジーンズとTシャツを脱ぐと、黒いスーツと淡いブルーのクレリックシャツを取り出した。扉の壊れかけているクローゼットの中には、数は多くないがスーツや見目のいいカジュアルな衣服がかかっていた。
「どこ、行くの?」
 ふだんから持ち歩いているファルダーナイフをパンツのポケット内側へ入れ替えていると、ベッドから上半身だけを起こしたルチアーノが尋ねてきた。
「サントに呼ばれてる」
「……嫌な予感がする」
 まだ寝ぼけ半分のルチアーノの言葉にラファルは苦笑した。
「やめろよ、縁起でもない」
 ASホテルに呼ばれたということはよほど大物が相手なのだろう。本番はないかもしれないが、その分、相手は強烈な嗜好を持っている可能性がある。
「ラファル、どれくらい貯まった?」
「え?」
「夏が終わるまでに引っ越そう?」
 突拍子もない話にラファルはでき上がった煙草を詰める手を止める。ルチアーノはすでに二十二歳だったが、時おり、夢のような非現実的な話をすることがあった。もしかしたら、ブレンドされた煙草の影響かもしれないが、ラファルは確信の持てない事柄を憶測だけで彼へ話そうとは思わなかった。
「俺、この街、好きじゃないって言っただろ? そうだ、もっと北へ引っ越そう? 雪、見たことある?」
 ラファルの母親が生まれた国は雪がうんざりするくらい積もる。だが、ラファル自身は雪を見たことがなかった。
「ない、けど……」
 窓の外は朝陽がさんさんと降り注いでいた。
「じゃあ、決まり。ラファル」
 ルチアーノは無邪気に笑うと、「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
 ラファルは扉を閉めた後、もう一度、扉を開けて、中を確認した。ルチアーノは背中を向けて眠っている。
 階下へ行こうと玄関の扉を開けようとしたところで、マウロが部屋の扉を開けて出てくる。
「ASホテルだろ?」
 ラファルは驚きを表情に出さず、振り返る。サントとの電話の中で、サントもラファルもホテルの名前は出していない。
「俺ってそんなに有名?」
 どこからか情報が漏れている。ふざけた口調で問うと、マウロはいつの間にかくすねていたルチアーノの煙草を吸い始める。
「おまえ、今日はついてるよ。この絶好のチャンス逃がしたら、次はないってくらい」
 嫌な予感がすると言ったルチアーノの言葉を引きずっているのか、マウロの言葉に刺を感じた。何か言い返してやろうと思い、口を開いたところで、クラクションが二度聞こえてくる。ASホテルは郊外にある最高級ホテルのため、サントがタクシーを回していた。
 ラファルは結局、背を向けて、階段を下りた。いつものスニーカーではなく、履き慣れない革靴はやけに重さを感じた。

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