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 史人の隣へ座り、彼と一緒にテレビを見ていた直広だったが、しだいに眠くなり、目を閉じた。ソファの背もたれへ背中をあずけ、隣にいる史人の左手へ触れる。史人はテレビから聞こえてくる言葉をまねしたり、時おり、笑い声を上げたりしていた。久しぶりに満たされた気分になる。

 夢の中でも史人は笑っていた。今まで色々とあったものの、史人は長屋にいた時より、言葉を覚え、よく笑うようになった。
「これ、なに?」
 史人の言葉に、直広は寝返りをうった。ソファは直広が寝転んでも、まだ余裕がある。いつの間に、横になったのだろうと思いながら、うっすら目を開ける。
「それはかき揚げだ。小さくしてやるから、待ってろ」
 ローテーブルにはうどんがあり、高岡が小さな器へうどんを分けているところだった。
「熱いぞ。冷ましながら、食べろ」
 高岡から小さな器とフォークを受け取った史人が、「ふーふー」と息を吹きかけ、うどんを口へ運んだ。
「かきあげ、おいしいね」
 器の中のうどんとかき揚げを頬張り、史人が笑みを見せる。高岡はローテーブルに肘をつき、史人の言葉に頷いた。
「おかわりもある」
「パパのぶんも?」
「パパの分も別にあるから、おまえが全部食べても問題ない」
 直広は高岡と視線が合い、夢の続きではないことを悟った。慌てて体を起こす。
「あ、パパ! おはよう」
 史人に返事をして、直広は自分の体にかかっていたブランケットをソファへ置く。
「高岡さん……、すみません。俺……」
 てっきり宮田が来るのだと思っていた。顔に出たのか、高岡が口を開く。
「宮田には今、問題を処理させてる」
「あ、はい、あの、すみません、俺、うたた寝のつもりが」
 直広は史人の隣へ座った。気をつけて食べているようだが、史人は床や服にうどんの汁や具をこぼしている。直広は焦って、布巾を取りにいこうとした。
「すみません。あや、こぼさないように気をつけて」
 ローテーブルから拭こうとしたら、高岡に布巾を取られた。
「キッチンにおまえの分もある。さっき運ばせたばかりだ。先に食べろ」
「でも……」
「小さい子が食事をすれば汚れる。こぼすたびに拭くつもりか?」
 高岡は布巾をローテーブルへ置き、空になっている史人の器に、おかわりを入れる。
「史人はうどんが好きなのか?」
「うん。すき」
 キッチンにあったうどんはまだ温かそうだ。直広はローテーブルへ移動して、史人の隣へ座った。
「いただきます」
 高岡へ頭を下げて、大きなかき揚げののったうどんを口へ運ぶ。かき揚げはすでにやわらかくなっていたが、味は絶品だった。昨日は高岡の手前、弁当を残さずに食べた。だが、今は全部食べきるのは厳しい。直広は三分の一ほど食べたところで、一度、割り箸を置いた。
「無理に食べなくていい」
 直広を一瞥した高岡は、そう言って、史人の口の周りをティッシュで拭いてくれる。子どもの扱いを見ていると、彼がやくざとはとうてい思えない。彼はローテーブルの上を拭き、キッチンで布巾を洗った後、またテーブルの上に置く。
「りょー、これ、ありがとう」
 ギンガムチェックのシャツを指して、史人が礼を言う。直広も頭を下げた。
「本当に何から何まですみません」
 正座していた直広が額を床につけると、高岡は直広の左腕をつかんだ。何かと思い、顔を上げる。
「サイズ、大きかったみたいだな」
 彼は直広の手首をつかんだまま、袖を少し上げる。手首の擦過傷は消えているが、ナイフで切られた傷は残っている。彼がそれに気づかないはずもなく、傷全体を確認するように袖を上げた。そして、何も言わずにまた袖を下ろしてくれる。

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