小話 | ナノ



軽々と抱き上げられた最初の格好のまま、私は背中に感じる固いタイルの感触から逃れようと彼の肩にしがみついた。脚を彼の腰に巻きつけて、鏡台のわずかに突出した部分に申し訳程度に尻を乗せ、私は彼にキスをねだっている。
私の身体をさわって、性急に開いていく彼の手はひどく熱かった。シャワーを浴びた直後なのだから当然だろうか。とにかく彼は今、いつもみたいにクールな顔などしていなかった。


「承太郎、手、熱い」


自分の喉から出た声がかすれている。
Tシャツを下から上へたくし上げられて、腹から上へその熱くて大きな手のひらが迫ってくる。形を確かめるように胸をもみしだく左手と、パイル地の部屋着を押し下げながら下着の側面にじれったく指をかける右手。承太郎は私の首筋に唇を這わせて好き勝手にあとを残していく。教えなかったらそのやり方も分からなかったくせに。内心の悔しさは反応には少しも還元されなかった。私は自分で分かるほどとろけた目で彼の一挙一動を追っている。私の胸に口をつけた承太郎が荒い息をつく。彼の歯が芯を持ち始めた胸の突起にふれて、私は逃げるように身をよじる。身体にも心にも逃げ場はないのに。…緑がかった鋭い目に熱っぽく見つめられて息を呑んでしまう。こんな風に彼の目に映っている間、私はたまらなく幸福だった。
彼の右手がつうと内腿を撫でる。は、と口から漏れた吐息の上から厚めの唇が押しつけられた。次いで彼はその高い鼻梁で浴室の湿気と少しの汗でしっとりとした私の髪をかき分け、たどり着いた先の耳に甘噛みした。私があられもない声を上げたことに気をよくした彼はそこばかりにかかずらう。ひちゃりと水音を立てて熱い舌が耳朶を撫でては、唇は思い出したように首筋へ降りていく。
その一方で、彼の右手がずり下げた下着と脚の間に這い入るように割り込んでくる。既に濡れている入り口を、承太郎の指がなぞるようにゆるゆると往復する。中へは入って来ずに、私が焦れるのを待つようにゆっくりと。もどかしくて揺れる腰を、承太郎が気付いてしたり顔で笑う。

「それ、やだ」
「…じらされる方が好きだろ、てめーは」

男の指が入口の上の突起を押しつぶすと、ぐちゃりと粘着質な音がした。吐いた息と一緒に出そうになる甲高い声を堪えようと顔を覆った私の手を、承太郎はわずらわしげに片手で取っ払って、かぶりつくようなキスをする。
そうして彼の舌に私の意識がいっている内に入り口をまさぐっていた指が中へ入ってきた。指は肉を押しのけてふちをなぞるようにねちっこく撫でながらそこを出入りする。私は背筋を這い上がってくるどうしようもない快感にわなないた。名残惜しげに唇のふちを舐めて承太郎の唇が離れていく。動き続ける指がくれるぞくぞくするような快感も、次第になんだか物足りなくなってくる。いいところをさわったのは最初だけで、今はそこをわざとらしくゆるやかに指が周回している。彼はやはり私を焦らそうとしているのだ。その証拠に、彼は笑っている。

「やだよ、承太郎……もういれて」

両手を彼の手首の横からすべり込ませて、彼のズボンを押し上げているものにさわる。今度は彼が、ごくりと息を呑んだのが聞こえた。ベルトをしていない腰を撫で、チャックに指先をかける。承太郎、と何度目かも分からない彼の名前を呼ぶと、彼はついにさっきまで笑みを見せていたような余裕をかなぐり捨てて、身に着けていたものを床に落とした。ついでのように私の衣服も脚から抜かれて、着ているのははだけたTシャツ一枚になった。
露わになった男性器の先端を私が指先で押すと、承太郎がとがめるように、おい、と苦笑を漏らす。
あてがわれたそれは入る場所を探っているみたいに、指と同じように入り口の上をぬるぬると数回往復してから、急に押し入ってきた。
喉の奥から押し上げられるように甲高い声が出て、それが驚くほど甘ったるい。耳元で吐息まじりに呻くような承太郎の声がこもってなんだかくらくらする。身体を中心から突き上げられる感覚に気が遠くなりそうで、でも今こうしている事実を手放したくなくて、必死に彼の身体にしがみついた。

からかうような緩急をつけて出入りする、承太郎のそれが平均的なサイズからかけ離れていることはもちろん知っている。身体の真ん中を、肉を割るように広げて奥へ来る棒。好き勝手に身体を揺らされる度、かすれた声が途切れがちに自分の口から飛び出して、ひどく恥ずかしい。
わけが分からなくなるような性感が波のように頭の中を覆っていく。承太郎の荒げた息が首や耳をかすめ、私はキスをしてほしくて彼の顎を両手で包んだ。


「なまえ」


唇を覆う唇の形を、ふやけた感覚の中で感じている。途方もない快感の中でもがいている私のすぐ目の前で、う、と詰まった声を漏らした彼がいきそうに感じていることに気付いてなんだかとても幸福で、でも早くベッドの中で穏やかに彼の腕の中でぐっすり寝たい気もして。

引き抜かれた男性器の先端から飛び散った白い液体をぼうっと見送っていた私に承太郎は、まじまじと見るもんじゃあねーとふて腐れたように言ってもう一度キスをした。
×