部屋にはベッドがふたつあるというのに、彼らは窓際に置かれた同じベッドの上にいた。ベッドメイクされた状態のままぴしりと折り目正しいドア側のベッドは一目もくれられない。 女は真っ白なシーツに裸体の前面をくるんでベッドの端の方で三角座りをしている。腰から肩にかけての背面をむきだしにした彼女の、星明かりですらはっきりと弾く白い肌が、かたわらの男の目にまぶしい。女は十五分ほどだろうか、カーテンを開け放したままの窓の外をそうしてじっと眺めていた。 「意外だった」 そうして彼女がたっぷりの沈黙のあとにぽつりとこぼした一言の意図は、当然、かたわらで彼女のうつくしい背中を眺めているだけだった彼には通じるはずもない。 「空条、もしかして初めてだった?」 「………」 「そんなわけないか。忘れて」 彼の方を一度も顧みずに彼女はひとりで勝手に納得し、膝に乗せていた胸の前の腕を組み替えた。相変わらず窓の外の見事な星空を眺めている。 隣室に他の仲間が寝ていたために、彼女は声をこらえるのに必死だった。必死に顔を背けて、手で口を覆い、それでも時々、目だけは変わらずに彼を見つめていた彼女。指の隙間から小さくかすれた喘ぎと、彼の名前をこぼす。頑なに空条、としか呼ばなかった彼女が、そのときだけは名前で呼ばないのかと言う彼らしくもなく迂遠な要求に応えた。 ─―承太郎 ひどく官能的なささやきだった。 そういった時間が過ぎてしまえば、みょうじはいつも通りの彼女に戻っていた。色気もそっけもなく空条、とぶっきらぼうにみょうじは呼んだ。淡々とした涼しげな声で。ただ彼に向かってそのうつくしい背中をさらしているということだけが違う。 「よく考えたら、本当のアラビアンナイトだ」 ぽつりと落ちた彼女のつぶやきはあどけない。彼女は何かロマンチックなことを言おうと思って言ったわけではなく、本当にただそう思っただけのようだった。 「なまえ」 彼はベッドにじっと寝そべっていた身体を起こした。彼女は息を呑んだようだった。 「もう寝ろ」 細い腰に回した腕で、始まったときと同じように彼は彼女の身体を倒した。おとなしく彼の腕の中に納まって、そのたくましい胸板に額を預けた彼女は、眉間を険しくして口を引き結び、顔をしかめている。どうしよう、と。小さなささやきが、静かな部屋ではっきりと男の耳に届く。熱を持て余したような、そういう声だった。彼の胸元に甘えるようにすり寄るくせに、彼女は怖気づいてでもいるようにもう一度、どうしよう、とささやいた。 「何がだ」 「明日からふつうにしてられる自信がない」 腕の中でふるえている彼女の顔は恥ずかしげに赤らんでいる。 承太郎は無言で腕の中の彼女を抱き直し、そのつむじに唇を落とした。 ×
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