| ナノ ※大学生パロ


スプTン一匙の砂糖で救われる人

同じサークルの同期となんやかやで半分以上ノリのまま付き合い始めて早1年が経とうとしている。こんなに簡単でいいのかとか思いつつ、まあいっかとかなあなあでやってるわけで。そりゃ誕生日も記念日もイベントもこの1年一通りやったけど。けど未だに、うそお前ら付き合ってんのうっそだあみたいに言われることも、まあ、無いとは言えないっていうか。そもそもあいつが…元親が1人暮らしなもんだから最近仕送り途絶えただの何だのつってバイトの量を増やしてサークルにも全然顔出さなくなってからそうこうしてる内に気付くと新入生の勧誘の時期になり早い子は既に所属を決めて馴染み始めるような4月の終わりになっていた。もちろん私は大学の近くに住んでるチカの家に遊びに行ったりして定期的に会ってはいたけど周りからしたら何お前らちゃんと続いてんのみたいに思えるみたいでそもそもあいつの方は生存を危ぶまれるほどだ。
で、チカの奴がいない間にうちのサークルにもそこそこ新入生が集まり、去年下っ端だった私たちも先輩面ができるようになった。チカは5月の始めの辺りからちらほら顔を出すようにはなったけど、後輩たちからすると誰あれ状態で、まあ持ち前の兄貴体質でみるみる馴染んでいくのを私は何となく遠巻きにして見ていたりして。まさか今年入った可愛い女の子たちがわざわざ他のイケメンをスルーしてあんな男臭いむさ苦しいいかついお兄さんに走るだなんて思えなかったし私の心には自分でもわけの分からないような自信が芽生えていた。
たぶん一番の要因は、自分が案外後輩に慕われるタイプなんじゃないかと思えてきたことにあると思うのだ。今まで思ってたより後輩ってかわいいかもとか思って。中高はあんまり後輩とは話さなかったし面倒見もいい方じゃなかった。それが今じゃどうよ。というあれからくる自信なのだろう。恐らく。

でもさすがにこれは想定外だった。


「先輩、好きです……これ、マジですからね」

何の罰ゲームだよとツッコミを入れる前に入った牽制で私は口を噤まざるを得ない。
「出会って1ヶ月くらいが告白とかのタイミングらしいよ」
ドイツ語専攻の友達の言ってた信憑性のなさそうな話を思い出す。そういやこの彼はちょうど1ヶ月くらい前からサークルに所属している。ちゃんとした付き合いもその辺りからだ。

「あー…っと…」
「返事、今すぐが無理なら待ちますんで」
「いや、あのさ…」

はっきりしないのが悪いのかなあと思いはするけど答えを聞きたくないとばかりにあっという間に立ち去った彼にも非はあるんじゃないかのかなと。

「彼氏いるときにモテ期なってもねー」

うっかり同席してしまった間の悪い佐助に同意を求めると苦笑いされてしかも目を逸らされた。ポケットで震えた携帯を取り出すといやにタイミングよく元親からのメールだった。ただし内容がひどい。
「明日の飯がない」
……はいはいメシな。私はきみの彼女であって餌係じゃありませんよと。
「明日行くから」とか素直に返してる私はたぶん本当にとことんまでこのダメ男に弱い。






「チカちゃん開けてー」

3秒の沈黙から不意にドアが開く。無精髭もそのままにむさ苦しい顔の元親がぬぼっと玄関先に現れた。約束したのは昨日なのに彼女と会うのに髭も剃らないアホだ。こいつは。…とかなんとか彼女っぽい不満を持ったところで所詮スタート地点がノリと勢いなんだからぞんざいなのはしょうがないのか。

「まだインターホン直してないの?」
「金がかかんだよ…」

眠そうにあくびをひとつ。こんなときじゃなければいい奴なんですけどね。いや本当。
家に上がってみると案の定、やっぱり、部屋の中は汚かった。

「相変わらず汚いね、部屋」
「何でか片付かねーんだよなァ」

何でかも何も。人が見かねて片付ける端から汚していく奴が何を言ってるんだか。私が掃除してたことにもまさか気付いてなかったなんてまさかあるまい。
飯は今作るからじっとしてて、と言おうとした私の背中にずっしりと間違いようのない重みがのしかかる。

「腹減った…」
「作るから。邪魔すんな」

すると元親は黙って私を抱き込んだままずるずる座り込んだ。腹減ってんじゃねーのかよ。

「チカちゃーん離してー」

腰周りをホールドした元親の腕をぺしぺしやっても当の本人は無言。もしかして会わなかったのがそれなりに寂しかったとか?つって希望的観測が音速で頭の中を走っていく。会わなかったとか、たかが3日ですけどね。

「…名前」
「んー?」
「お前、サークルの後輩に告られたって?」

肌の上を温い呼気が撫でた。何で知ってんのと私が聞く前に元親が、他人は認めるいい声で、なあ、だとか促すもんだから。チカにいらないこと教えちゃったの誰よ。

「まあ、うん」
「ちゃんと断ったか?」
「言う前に逃げられちゃった」

元親が不意に伸ばした片手を私の右の肩口に置いた。背中が元親の胸に当たる。
名前、と小さくささやく声が痺れるほどかっこいいんだからこの男は憎たらしい。

「若い男に乗り換えようってか、お前って女はよォ…」

聞こえてきた嘆息に、唐突に悟った。これってやばくね?後輩くんに告白されててしかもちゃんと断ってないとか。…チカちゃんてば案外純情一途なもんだから浮気は一回こっきりでさよならなんだそうです。誤解だけどまずいんじゃね。この際、誰がチクったんですかなんて気にしてる場合じゃない。

「やだよチカちゃん捨てないで」
「は?捨てられんのは俺だろ、今の流れは」
「………え?」

首筋を元親の唇がそっとなぞった。また、名前、と呟いた元親が涙目の私をがっちり抱きしめて、そんな奴フッちまえとか言うから。涙腺が臨界を越えてどばっと涙が出た。好きだよチカちゃん、かなり本気。ノリと勢いとか言ってたけど本当は真面目に好きだよ。

「何泣いてんだ。泣きてェのはこっちだぜ……なあ、何で相談しなかった?」

相談しなくても断って終わりにするつもりだったし、話して無反応なのもやだし、つって言い訳したいのにうまいこと声が出なかった。私の背面にひっついたでっかいのが、今度は不安そうに私の名前を呼ぶ。名前。
私は彼の腕の中で身体をよじって彼と向き合った。私が抱きしめると元親は当然のように抱きしめ返して黙った。

「好き、チカ。チカ以外じゃ無理」

チカは、泣きじゃくって片言の私をその白くともたくましい両腕で以て床の上に組み敷いて見下ろした。断れよ、と念を押して、私が何度も頷くと優しい顔をして、頭を撫でてくれた。
そう、好きなのだ。彼女を飯炊きに呼びつけるような男でも、彼女と会うというのに髭も剃らず起き抜けの格好でいるような男でも、私の努力など知った風でない男でも。それでも彼がその広い懐に特別広く私の居場所を空けておいてくれて、優しさを見せてくれて、私を好きだと確かに目を見て言ってくれるなら。若い男にかすめ盗られる前に、私にすがりついて止めてくれるなら。

「俺だってお前以外じゃ無理に決まってら」

だからあなたがくれる幸福で生きていける


title by ギルティ
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