「何でもかんでもあれしてほしい、これしてほしい、で自分から何かしようって発想がないのがだめ」 「……厳しい」 研磨は意外と、ゲームの音をピロピロさせながらゲームをするのが好きだ。部屋だと絶対に携帯機の音量大きめでひたすらカチャカチャやっている。ゆったりとした口調とは裏腹に素早く動く指先を思わずじっと見つめていて、「名前ってしゃべるとき擬音多いよね」と以前何かの折にふと研磨が呟いたことを思い出した。確かに。 持参した課題図書を絨毯の上に倒す。彼は熱中していて、さっき二文節以上しゃべったからいいやとばかりに口をきゅっと噤んでいる。研磨と目が合わないのはいつものことだ。彼のちょっとしたコンプレックスのことも相まって、今では気にならない。 「私なりにね、何かしたいなーとは思うよ。何したらいいかわかんないだけで」 研磨の手元から出るBGMがさっきから忙しなく二転三転する。研磨は、ふうん、と鼻先でどうでもよさそうに生返事した。 「大人だったらなー…せめて成人しててもっとお金持ってて、相手も私もお酒好きとかだったら、今度飲み奢るから!って言えるのに」 「女子高生の発想じゃない」 BGM、ボタン連打、研磨といるといつもこの音が背景にある。いっそこの部屋のBGMみたいなそれを聞いていると、不思議と安心してきてしまうくらいには慣れている。研磨が私の目を見てくれなくても片手間でも話は聞いてくれているし、たぶん、嫌われてはいない。 研磨だったら彼女に何をしてほしいのだろう。少なくともゲームしてる最中に延々横でつまらないおしゃべりをされたくはないだろう。研磨が何をしたら喜ぶのか、そういえば私はあまり知らないのだ。せいぜいアップルパイ買ってくるとか、……そのくらいしか知らない。 「男の人って何されたら嬉しいの?」 「さあ?」 「えー…なんかないの」 「俺、名前といるときは男じゃないみたいだから、知らない」 研磨は手元から目を離さなかった。相変わらず二転三転のBGMを聞きながら思わず黙考する。 彼は男の子だ。いつだって。私のかわいい男の子だ。 「男の子でしょ、研磨」 「………」 「え、ちょっと」 黙らないでよ、と言おうとした矢先、研磨はゲームをスリープにしてベッドの上に置いた。不意に部屋の中がしんと静かになる。私たちの何でもない会話を、何と華やかにしていたのだろう、あの音は。研磨が億劫そうに振り返って、怪訝な目でじろじろと私を見て、そして手を伸ばした。 「男だよ。だから名前はばか」 彼の手が髪にさわる。さりげない手つきだなあ、と変に感心している私に向かって続け様に、まぬけな顔、と抑揚もなく辛辣に彼は言う。 「研磨って私にすごく厳しいよね」 「うん。でも名前も俺にひどいことしてるし、あいこだから」 さりげない手が、するすると動いて私のうなじを押さえた。ひどいこと。研磨のことをかわいい子として扱って、何にも気にせず部屋にいること。 「分かってるんでしょ、名前も」 間近に迫った唇が言う。 ………男の人ってかわいい。 title by 深爪 ×
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