「お前んち今日なんでご両親いねーの」 「私が福引きで当てたホテルのディナー1泊付きに行ってるから」 「おっかねー兄ちゃんは?」 「オール飲みだって」 「で、俺は何で呼ばれたんだっけ?」 「クリスマスだから」 「策略なの?」 「策略なの」 ベッドのふちに背を預けている男の首に両腕を絡ませると、顎の先で振り返った黒尾の口元がにやりと笑った。 そう、彼氏という存在にとって最難関の私の両親も、彼より背は低くとも筋骨隆々の空手部の兄も皆いない。どういうつもりかは、もちろん言うまでもない。清廉潔白なお付き合いなど、少なくとも私たちにとっては、望むべきものではなかった。というよりむしろ大半のカップルはイベントにかこつけてそういうことをする日だと思っていると思う。 黒尾の手が伸びてくる。顎が捕まった。しっとりした唇の感触が気持ちいい。 ふつう、女子っていうのはがっつく彼氏を諌めるものらしい。確かにその方が、男の欲求は高まったりするのかもしれない。逃げられると追いたくなる本能をくすぐる、そういう手管のある友人たちを素直にすごいと思う。私はできない。我慢が利かなくて。 「追う楽しみのない女で、つまんないでしょ」 「むしろ俺を我慢の利かないわがまま野郎に仕上げてる自覚はあんの」 黒尾がベッドに上がってくると、その重みでベッドがぎしりと不安になるような音を立てる。筋肉あるもんなあ、と彼の肩口に手を添わせながら考える。実用的な、彼の運動に不可欠なので必然的についた筋肉。無理にプロテインで膨れ上がった兄を見慣れているせいか、機能美的なしゅっとした筋肉には憧れを抱いている。厚みがあるのに、ただ分厚いだけじゃなくて、服越しには細く見えるのにずっしりと重みがある。生々しくて、でも神秘だ。 「黒尾にがっつかれると嬉しくなっちゃって、だめなんだよね」 肩から背中、その下に手を滑らせて、腰から脇、前面の腹までゆっくりと、時々彼のニットをくしゃりと乱しながら撫でていく。何か言いたげに少し開いた口に、身体を浮かせて自分からキスをする。舌を押し込んで強張ったように止まった彼の舌を撫でると、たくましい肩がぴくりとまた少し強張った。 「俺とこういうことすんのは好きなのに、何で名前呼ばねえかな」 「呼んでほしいの、てっちゃん」 「茶化すなって」 脇に手を差し込んで、そんなに軽いはずはない私の身体をぐいと起き上がらせた黒尾の目がぎらぎらしていて、口の中で思わず、いいなあ、と呟く。そんなに真剣な、こわい目で見られたら、何でもしてあげたくなっちゃうなあ。 「私に何してもいいから、浮気だけはやめてね、鉄朗」 「こんなエロい女がいんのにそれはちょっと無理ですかねぇ」 黒尾が着ているニットとインナーの、さらに下に手を入れる。暖房の利いた部屋の中にいた私の手も、さわった先の彼の腹も熱とは言えない程度にぬくもっている。彼はにやにやして、指の腹で私の唇をそろりと撫でた。 「そろそろもっかいチューしてもいいすか、名前さん」 「それ以上のことしてくれていいんですけど?鉄朗くん」 にんまり。黒尾の唇がやわらかく曲がる。私は舌舐めずりしたいくらいの気持ちだ。まだ夕方にもなってない。時間はたくさんあるし、毎年恒例クリスマスのプレゼント交換はあとだっていいだろう。 title : にやり ×
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