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………カラン、とドアの鈴が鳴る音が響いた。

「いらっしゃい、旦那さん」
「失礼、主人」

上等そうなロングコートを羽織った大柄な男性が、ある街の換金所を訪れた。鋭い眼光、それと顔の傷が目立つ。―――怪しい、だが、こいつは、金のにおいがする。そんな嗅覚のするどい主人は、愛想よく、失礼のないよう丁寧に男を出迎えた。

「今日は何の御用で? 」
「あぁ、ひとつ聞きたいことがあってな。ここに若い娘は来なかったか? 」
「娘さんですか? さて、今日は忙しかったから、はて………」

ぴくりと、主人の目元がひきつるが、誤魔化すように笑顔を浮かべた。男は続ける。

「うちの小間使いなんだが、朝にやったきり、まだ帰ってこない。もうじき日が暮れるからと、小用ついでに出向いてみた。主人、なにか知らないか? 」
「………………いえ、こちらでは存じません」
「そうか。……では、主人。今手元に隠したそこの革袋、それは何か? 」
「…………」

男は、声を威圧するように低めた。静かだが厳しい声だった。

「そう蒼ざめるな。こちらとしても、事を荒立てたくはねぇ」
コトリ、と静かにひとつの指輪が置かれた。繊細な細工の施された立派なものだ。

「これで、主人が今隠したその袋、それを換金するのと、うちのを解放してくれりゃァいい。他には黙っていようじゃねぇか」男は一度言葉を切る。目が伏せられ、表情が伺えない。だが、口元がゆるく弧を描いている。「………それとも、もっと荒々しい手段がお好みか? 」

主人はすっかり竦みあがってしまった。蛇に睨まれた蛙のように、身を固まらせている。ようやく、震える唇を開け言葉を発した。

「………こちらです」

気まずげに視線を落とし、そっと扉を開ける。現れたのは、地下階段。暗くて湿気っていて黴臭い。普段は倉庫として使っているのだろう。そこの一角。見過ごしてしまうような小さな木の扉。そこを指で指し示される。

「ここでいい……、お前は上で金の用意をしておけ」
はいっ、と返事がされると、それを横目でみやる。手を扉にかけ、少し押す。するとキィと、軽い音とともに扉があいた。

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