開かれた窓から、冷えた砂漠の風が舞い込んでくる。真昼時の暑さなんて想像もつかせない涼やかな風が頬をなでると、なぜか寂しい気持ちになるのはなぜだろう。静かなこの世界で、わたしひとりだけが呼吸しているような、そんな感覚。
夜明け前の微妙な時間帯に、ふと目が覚めてしまった。まだ目覚めには早すぎる。カーテン越しに薄く光が射しはじめているのがわかる。
もう一度、瞼を閉じて、ゆっくりと深く息を吸い込む。少し湿った空気、それと微かに香るのは、クロコダイルが愛飲する葉巻のかおりと甘いコロン。クロコダイルは、情事のあと衣服を身につけないで眠ることがある。それなのに、いつもと同じように私を抱き込んで眠るから、素肌が触れ合う感覚にいつもドキドキしてしまう。少し乾燥したクロコダイルの肌。彼の年相応に、みずみずしさは失われつつあるけれど、包み込まれる安心感がある。
「(クロコダイルさま、まだ寝てる)」
こうしてじっくりと落ち着いてクロコダイルの顔をみる機会なんて、ほとんどない。そっと薄目をあけて盗み見る。いつも委縮して顔をみれないで視線をさまよわせているか、無理やり顔をつかまれて目線をあわせられ、焦ってそれどころじゃなくなってしまうかの、どちらかだった。
「(目をつぶっていると、いつもほど怖くないのに……)」
そんなことを思いながら、じぃっと見つめる。
「……なまえ」
眉が顰められ、瞼を閉じたままのクロコダイルがくぐもった声をだす。
「まだ、いいだろ………」
少し不機嫌そうな、掠れた声。起きていることに気づかれたようだ。クロコダイルは、意外となかなか起きない。わたしは、こうしてときどき夜明け前に目が覚めてしまうことがあるけれど、あんなに敏い彼なのに、わたしがいくらもぞもぞやっていても起きないこともある。
しょうがなく、そのまま目を閉じた。クロコダイルの呼吸を感じる。
ちゅっ、と軽い口づけが前髪の上から額のあたりにひとつ落とされた。
まだ、寝てろということだろう。御主人様の命令なら仕方ない。
暁。夜明けはまだ遠く。
***
クロコダイルはときどき服着ないで寝るということだけを書きたかった小話