03

「おお!ほんとうに象牙のような肌をしている!」

わたしを『買った』という男は、下品でツヤツヤと光る、小太りの男だった。高そうなシルクのシャツをきているが、襟元や裾に、ほつれが目立ち、張り出たおなかが不格好に主張してボタンがはちきれそうだった。高価なもので身を固めているはずなのに、不思議と、『品』というべきものがまったく感じられない。

商人であるらしいその男は、料金の引換が済んだあと、ホテルの一室でわたしの確認をしている。指の短い、小さな脂ぎった手が、ペタペタとわたしの顔や上半身を撫でまわし、気色悪さに鳥肌がたった。

「………うーむ、随分うす汚れているなァ。ガリガリだし、別段顔立ちが良いわけでもない。目つきも、不気味というか、悪い。だが、めずらしいと聞いてわざわざ大金はたいて買ったのだ。クロコダイル様もきっとお気に召すはず!」

そんな独り言をつぶやいてる男を尻目に、わたしはひとり、納得していた。腹の底に、すとんと理由が落ちて理解された。―――なるほど、そうか。わたしは男にあてがわれるために買われたのか。これはめずらしい、奴隷人生はじめてのことだった。

そうだ、この男の言う通り、わたしが特段、見目が良いわけじゃない。だから小間使いの奴隷として売られたのだ。それが、故郷からこんな遠くにきたせいで、めずらしいから女として売られるのか!これは、なんともいえない、ケッサクだ!女としてなんの手練手管もないわたしを買わされたこの男が、可哀想ですらあった。


「―――まぁいい。確認も済んだことであるし、これからクロコダイル様のもとへ伺うぞ。決して粗相などせぬように!」

そういわれると、男に手をひかれた。小さな不格好な手は、湿っていてやはり気色悪かった。廊下をひっぱられるように歩いて、連れていかれた先は、なんだか豪華な装付の施された扉の前。

そこまで先導して案内をしていた、使用人のものが扉を叩く。堅くて重たい音が粛々と響く。隣で男が小さく唾をのむ音が聞こえた。わたしは、きっと、偉い人と会うんだろうな、とまるで他人事のように思っていた。

「…………はいれ」

扉の奥から、低く渋い声が聞こえた。そうして、ギィと重厚な音とともに、ゆっくりと扉が開かれた。部屋に足を踏み入れたあと、背後で響いた、扉の閉められる音は、これからの私の命運を示すかのように、暗く、冷たいものだった。

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